そのニ
「ふしゅるるるるっ!」
問題です。これは何の鳴き声でしょうか?
ヒント、魔獣ではありません。因みに、馬でもありません。
「うーん、拗らせすぎるとこうなるのね……」
「ギルマスが悪いな」
正解は、元婚約者に梯子をはずされた貴族様の唸り声でした。
「あなたは、気を付けなさいよ?」
「うーん、大丈夫だろ」
知らんけど。アイシアの目が怖いので、視線をそっとそらした。
しかしまあ、ユリアが拗らせていようがギルマスが再会後にどうなろうが知ったことはないんだけど、白の矢について知ってることがあるんだったら教えてもらいたい。
「どうにかできないか?」
「頭叩いてみる?」
「死ぬだろ」
お前はちゃんと自分の腕力の恐ろしさを理解しなさい。普通の人間は、生きていられません。グノル家の連中は、普通じゃないのでノーカウントです。
「それで、白についてだったな」
「「うわ!」」
俺たちが、拗らせ貴族に対する方針を話し合っている間に、いつの間にかユリアはなんやかんや自力で無事に人間性を取り戻してくれていたらしい。急に戻るからビビる。
馬に指示を出して、俺とアイシアでユリアを真ん中に挟んで、話が聞きやすいように位置を調整した。
「アイシア嬢が、矢について詳しいことを知らない理由だが、理由は単純だ。毎年白の武器は量産されているからだよ」
「え、そうなの?」
量産できるもんなのか。伝説の竜種の素材とか使ってるんじゃないの?
「だって、考えてみなさいよ。もし、伝説通りに白い竜種の素材を使っていたとしても、初代様からどれだけ竜卿が代を重ねていると思ってるのよ。めっちゃくちゃ丁寧に手入れをしても、素材は劣化していくに決まってるじゃない」
「あー、そりゃそうだ」
つーことは、あれか。
「単純に色を塗ってるだけなのか」
「そうね。そう言われると、なんだか複雑な気持ちになるのだけど」
「まあ、それでも、馬鹿にしたものじゃないぞ」
なんでも、白の武器を作れるということは、それすなわちそれだけの技術の証明になるかららしい。
「要は、めっちゃくちゃ腕の良い職人が作った矢ってことなのね」
「そうよ。良かったわね、使い放題よ」
それは良かった。
王と竜卿から直々に、矢を使うために新しく弓を用意しろなんて命じられていたから、てっきり貴重品なのかと思っていた。
高価なものには、違いないだろうが、かなり気が楽になった。
そう思っていたのは、サハイテで実物を見せられるまでだった。俺は、伝説の白の武器と対面することになったのだった。




