環境種 その一
白という色は、竜卿にとって大きな意味を持つ、らしい。なんでも、初代竜卿が初めて単独で討伐した竜種が全身白色だったそうだ。他にも、何者にも染まらない強さとか、まあ色々理由があるみたいだ。
「それで、あなたが使う白の矢についてなんだけど」
「おう」
深夜未明。俺たち五人はすでに王都を発っていた。俺と竜卿、まさかのユリア、そして黒狼騎士団の団長であるアイシア兄と団員が一人だ。
移動速度を考えて、各々が別々の馬に乗っているので、声が非常に遠い。
「ぶっちゃけ、良く分からないわ」
「なんで?」
持ち主お前だろ。
矢の癖とか、効果とかある程度聞いておこうと思ったらこれだよ。
「だって、私も初めて聞いたもん」
「お前竜卿だよな」
「分からないことぐらいいっぱいあるわよ」
えー、そこで開き直られると困るんだけど。
「なら、私からその理由を説明してやろう」
「あ、ギ、ユリアさん」
危ねえ。素でギルマスの元カノって言いそうになった。
騎士団の二人はと聞こうとしたところで、なにやら金属同士がぶつかりあっている音に気づいた。ひょっとして、俺ら襲われてない……?
「あれ、昨日あなたがブチッとした連中?」
「ああ、残党だろうな。暇なんだろう」
うーん、恐ろしい会話。というか、ブチッとしたのは個人なのか、家ごとなのか……。
これ以上考えてはいけないと、本能が警鐘を鳴らしている。
話題をそらそう。
「そういえば、なんでこっちについてきたんですか?」
「ん?ああ、そうだな、分かりやすく言えば、私の領地がヤバそうなんでな」
どうやら、環境種の進路に入っているらしい。
って、まてよ?ということは。
「進路の予想まで出てるんですか?」
「ああ、クリストファの大馬鹿野郎が、大分前から予測して、手回しまでしていたらしい」
若干笑い混じりにユリアが答えた。これ、ギルマスの流儀ならぶちギレてるってことだよな。
「前もって、かひゅー、言えと、ふひゅー、何度も!」
もう、笑いすぎて息も絶え絶えだ。
絶対近づいたら不味いやつ。
「あいつは!ふしゅる!昔から!こぴっ!そうなんだ!かひゅ!一人で勝手に!」
俺とアイシアは、ばれないようにそっとユリアから距離をとった。いや、こわっ。
「なんであんなにぶちギレてると思う?」
「うーん、構って貰えなくて寂しいってところかしら?」
ちょっと違う気がする。
いずれにしろ、揉めてる男女には近づいてはいけないって、師匠が言ってたので触れないでおくことに決めた。