その二十
俺は至極真っ当な感性をもっている男だと思っている。なぜか反論がとんできた気がするが、無視だ無視。そんなまともな俺は、今現在とてつもなく居心地が悪かった。なぜなら、
「この度の非礼の数々、なんと詫びれば良いか。かくなるうえは、腹を切るしか……!」
「いや、大丈夫ですから!慣れているので!」
「なんと有難いお言葉……しかしだからこそ止めてくださるな!」
いや、止めるわ。非礼ってレベルなら、お宅のジジイとか妹さんの方が圧倒的だぞ。
「あんなところを、家族以外の者に見られるとは、恥以外のなにでもない!」
「あー」
そっちなのね、本音は。
一応、人の話を聞かないおっさんの肉親の方に目をやると、ニヤニヤしていた。もうどうでもいいや。
「わが人生一片の悔いなし!」
ボキッ!
「くっ、やはりまだ死ねないか……」
「いや、今明らかに固有魔法使ったよね?」
死ぬ気なんて、欠片もないでしょあんた。
つーか、この茶番なんなの?
◇
「お兄様、そろそろ用件を教えなさい」
「もうちょい早くに言って欲しかったかなぁ」
「うるさい」
右頬をつねられた。うわ、横暴。
「竜卿殿にわが主からの書簡を預かって参りました」
「あら、王が一体なんのようかしら」
部屋の空気が、ガラリと変わる。というか、アイシア兄は王の部下なのか。その辺は、多分色々あったんだろう。
「こちらを」
その書簡は、極めてシンプルであるが、王の紋章が印字されている。因みに、アイシアの紋章が剣をモチーフにしたもので、その対をなす知の王の紋章は羽がモチーフだ。
アイシアは、しばらく目を通してくしゃりと握りつぶした。
「お、おい」
「本当なの?」
「環境種のことでしたら、確認済みでございます」
「そうなのね」
「ちょ、ちょっとまて、環境種!?」
それは、この世の理そのものの強大なナニか。
生物や魔獣という枠組みから外れた最強の存在だ。
以前の竜の巣の調査で、環境種は関係ないって話だったんじゃ?
「ええ、結局魔獣の異常個体は、大氾濫の予兆ということで結論付けたわね。だけど、大氾濫そのものの原因は?」
「まさか」
「そう言うことだって、そっちは確信しているんでしょ?」
ちらりと、アイシアは王の忠実な騎士を見た。
騎士は、ひとつ頷く。
「なら、私は環境種のもとに向かわないといけないわね。ケイトはどうする?」
爛々と輝く金の瞳が、こちらを見つめる。俺は、かすかな恐怖は断ち切り、問いに答えた。
「いくよ」
「そう。お願いね」
「ああ」
俺が魔狩りなんぞになったのは、成り行きでしかない。ただ、俺はこの日常を気に入ってしまったのだ。
そして、厄介なことに俺の日常は、この竜卿の隣にいないと成り立たないのだ。
「それじゃあ、さっさと出発したいところなんだけど」
「ええ」
え、なんで二人して俺のこと見てくるの?
ひょっとして、今さら俺は場違いだってここを追い出されたりする?
「明日の内覧会に出ないといけないから出発は明後日ね」
「え?」
この状況で、内覧会なんて参加する理由ないだろ。
「我が王からの、お達しでもあります。大弓が必要になりますので」
そうなの?
「ええ、何せあなたには白を使って貰うことになるからね」
俺にそう告げた竜卿の瞳は、複雑な色をしていた。
えー、武器内覧会編というタイトルでしたが、内覧会はすっ飛ばします
プロットぇ




