その十八
俺は懐から手紙を取り出す。ユリアは一言断りをいれてから、それを受けとった。
常に持ち歩いているのだろうペーパナイフで丁寧に、封を開けた。そして、そのまま読み始めるのかと思ったら、険しい表情を浮かべながら窓際へと近寄る。
(どう思う?)
(ラブレターでしょ)
(絶対そうだよな)
「聞こえているぞ、そこのバカども。違うからな」
おっと、これは失敬。ユリアの眉間には、皺がよっている。相当深刻な内容なのだろうか。
「アイシア嬢しばらく何かが侵入しても迎撃しないでくれ」
「別にいいけど……侵入してくるの?」
「ああ……丁度来たな」
ユリアがそう呟いて、窓を開け放つ。何かが部屋に飛び込んできた。
『POU POU』
お馴染みの鳩さんだ。その嘴には、俺が渡されたものより少しばかり分厚い手紙が咥えられていた。その鳩さんは、ユリアの肩に降り立った。ユリアは手紙を受けとり、優しく羽を撫でる。
「ありがとう」
『PO』
一声鳴いてすーと、鳩が消えた。
「え……?」
「あー、ギルマスの固有魔法で作ったのね」
「なんだ、君は見たことがなかったのか」
ギルマスの固有魔法なんて見る機会なかったし。
というか、もしかして普段俺を呼びに来るあの鳩もそうだったのか。
「って、ユリアここで手紙読むの?」
「そのつもりだが……何か不都合が?」
「いや、別に良いんだけれど、てっきり私たちに中身を知られたくないんだと」
「何か勘違いしてないか?」
喋りながら、ユリアはもう一度どっかりとソファに座った。
「そもそも、最初の手紙には何も書かれて無かったぞ」
「は?」
つーことはなにか、俺は何も書かれていないラブレターを持たされていたのか。
「あいつがよくやる方法なのだが、君が運んできた手紙は目印みたいなものなんだ」
「あ、もしかして、誰かに奪われたときのために?」
「さすがに察しが良いな」
アイシアがどや顔でこっちを見てくる。すげえ腹が立つのだが、俺はまだ訳が分かっていない。
「ええと……?」
「問題です。あなたがもし貴族で政敵の弱点になるような物を運んでいる馬車を見つければどうしますか?」
「襲う……あっ!」
なるほど。
つまり、あの手紙は本当の送り主であることを知らせるための目印だったのだ。多分、別人じゃないかを判断する機能もついているのだろう。もちろん、これは誰かに奪われたときのことを考えているのだ。
それで、本物だと分かったらさっきの鳩が本命の手紙を渡しに来るのだろう。
「アイシア嬢のヒントだけで察せるとは、センスが良いな。君、うちでも働かないか?色々と理解がある魔狩りは貴重でね」
「だーめ」
「ぐえっ」
アイシアさん、あの首をキュッとつかむのやめて貰えますか。
心配しなくても働きに行かねえよ。やだよ、そんな日常的に人間に襲われそうな仕事。今現在、襲われそうだけど!
「まあ、冗談だ。すまない、少しこれを読ませて貰うから、気にせず過ごしていてくれ」
「はーい」
良いお返事ですね。
首を掴むのはやめて貰いたいので、アイシアの手首を握った。そのまま、首から外して腕の位置を下げさせると、何が楽しいのかブンブン振り回し始めた。
うわーい、腕外れそう。
「君たちは、自由に過ごそうとすると二人で何かしらするんだな……」
「あら、もう読み終わったの」
「お陰さまで」
ユリアは、すさまじく上機嫌そうに笑顔を浮かべている。普通なら、良い知らせがあったと見るべきなのだろうが、俺はこの笑顔に見覚えがあった。具体的に言うと、ぶちギレているときのギルマスにそっくりなのだ。
「ケイト、君の滞在理由は、内覧会であっているな?」
「ええ、そうです」
「二日目?」
「ですね」
武器内覧会は、一日目は商人や研究所、貴族向きに、二日目に俺のようなごく普通の魔狩り向けに開催される。因みに、アイシアはどっちも参加するつもりらしい。
「ならば、悪いがアイシア嬢と君は、明日の一日目だけ参加して、明後日にはサハイテに向かってくれ」
「え?」
「なんでよ」