その十二
「えーと?」
目覚めたら、見慣れない景色だった。ここどこ?
「あら、お目覚め?」
「あぁ、アイシアか」
つーことは、ここはアイシアの実家か。昨日は、あー、ばばあに落とされたあとにここに運び込んでくれたのか。
「それで、アイシアさん」
なんか、王都にきてから質問しっぱなしだと思う。
「なによ」
「なんで俺の隣で寝てるの?」
そうなのだ。さっきから耳元で囁かれているので、くすぐったい。
俺の背中で頭をくしくししつつ、アイシアは答える。
「そもそも、これ私のベッドよ」
がばりと跳ね起きた。ねえ、なんでそういう誤解されることするの?
「今さらそれ気にする?」
さんざん一緒に寝た仲じゃない、とアイシアは続けるが仕事で野宿するときとこことでは話が全然違うだろ。
「別の部屋とかなかったのかよ……」
「当主権限で、別の部屋は無くなったわ」
「なにいってんだおまえ」
暴論過ぎんだろ。
「暴論というか事実よ。ほら、私この前の大氾濫で、またグラディエーターの称号貰ったじゃない?」
「ああ、そうらしいな」
「丁度十回目だったのよ」
俺は思わず遠い目をした。そもそも、グラディエーターの称号は、基準として一度に100体の魔獣を狩ることで得られるものだ。普通の魔狩りは、そんだけ大量に魔獣が湧く事態に関わることすら稀だ。
「まあ、私はちょっと昔のあれが反則臭い気もするけどね」
「あれはなぁ」
アイシアのいう通り、こいつは昔ちょっと特殊な氾濫に遭遇したのでこれだけグラディエーターを獲得してるんだけど。因みにその時は俺も一緒に巻き込まれたけど、無論称号は貰っていない。
「で、討伐数を報告したら、上があなたみたいな反応をしてね」
「そりゃそうだわ」
「やけくそになって、『こうなったら盛大に祝おうじゃないか!』とか言い出したのよ」
「あー、何となく先が見えてきた」
どうせあれだろ。大量の儀礼剣を貰ったとかだろう。因みに、儀礼剣はこういう時の定番の品だ。当然、一度に大量に渡されるはずはないのだが、まあアイシア絡みだし。
「アイシアちゃんグッズが各種製造されたのよ」
「ごめん、予想外だわ」
アイシアちゃんグッズってなにそれ。
「明日見せてあげるわ、人形とかおやきとかアクセサリーよ」
「うーわ、在庫抱えまくりそう」
「失礼な。逆に品切多数、再販が待ち望まれているらしいわ」
うーわ(二回目)。そういやこいつ、偶像的人気者だったわ。
「でも、そんだけ売れたんならここの部屋潰されることなくね?」
「試供品が山ほど……」
「あ…………」
「しょうがないから、サハイテで配ろうかしら……」
あっちに関しては全員が微妙な顔するだろうな。
「ということよ」
「なるほどね……」
「あと、あなた明日謁見があるからよろしく」
「ああ……はぁっ!?」
そんな大事なこと先にいえよ。っておい、唐突に寝るな。説明してくれ!
だが、結局昨夜固有魔法を酷使していたアイシアが、復活したのは翌朝の事だった。俺は他人の屋敷を勝手にうろつくわけにはいかなかったので、アイシアの部屋で過ごす羽目になった。
仕方がないので矢羽でも作っとくか……。おお、この羽は芸術的に切れたな……。