その十一
「あの爺さんは、みての通り孫バカでな」
「あれ、その程度ですまねえだろ」
バカというかもう犯罪に踏み込みそうだぞ。聞こえている範囲では、ずーっときもっちわるい嬌声をあげてるし。
「まあ、聞け。そんで、そのカワイイカワイイ孫娘が久々に家に帰ってきて、男を呼びたいのなんて言えばどうなると思う?」
「あー」
まあ、殴りに行くくらいは、するかもしれない。
「それで、偶々王都にいたオレを巻き込んだんだよ、あの馬鹿が」
「だったら、止めてくれればよかったじゃねえか」
ばばあは、巻き込まれて仕方がなかった感を装おうとしているが、俺は騙されねえぞ。
「オレも、そのつもりだったんだがな」
「続けろ」
「馬鹿弟子が、アイシアちゃんといちゃこらしている様子を実際に目のあたりにしたら、めちゃくちゃ腹が立ってきて、ついかっとなってやった」
「だろうな……」
一発殴った。躱された。逆に殴られた。なんで?
「あんなに、可愛い女の子といちゃこらするなら、師匠のオレに報告するのが筋ってもんだろうが!」
「しるか!第一、俺はアイシアといちゃこらしてねえ」
「どの口でそんなこと言うとるんだ!」
こうなれば、拳で説得するのが早い。
結局、俺と師匠の取っ組み合いは、
「ケイト!お祖父様の誤解をといて欲しいのだけれど、って何やってんのよ!」
「アイシアよ。師匠と弟子の語らいを邪魔してはいかん。ということで、あっちでおじいちゃんとはあはあはあとととととともともたまとまももももたと!」
「「取りあえず、爺さんはそこで潰れてろ」」
アイシアが自ら首輪をつけたらしい爺さんとこちらに戻ってくるまで続いたのだった。
もうわけがわからないよ。
アイシアによって、俺は羽交い締めにされてしまった。そのまま、アイシアは手の位置を変えて今は俺の腰に緩く巻き付けている。
できればやめて貰いたい。師匠と先代の目がやべえんだよ。
「それで、お祖父様よく聞いて」
「アイシア、俺の状況分かってる?」
殺されそうなんだけど。
「私とこいつは、決して男女の仲じゃないの」
「「説得力ねえわ」」
「えー、なんで?」
うーん、アイシアさん。首をかしげるのは良いですけど、まず俺を解放してくれない?
マジで、殺されそ……がごっ!
俺は意識を失った。
◇◇◇
一組の男女が、夜中に関わらず地面に正座させられている。
「天眼、お主やりすぎじゃろうて」
「うっさい」
先代と、師匠だ。先ほど、うっかりケイトを気絶させてしまったところ、アイシアの逆鱗に触れて今はグノル家の庭先で岩を抱かされているのだ。因みに、先代はそれでも孫との触れあいには代わりがないと、にっこにこしている。
「おい狸爺」
「相変わらず口が悪いなぁ」
旧知の仲なので、先代の好好爺じみた口調も少し崩れていく。
「うるさい。お前の依頼通り馬鹿弟子の実力を見せてやったが、満足か?」
「おう、それな。まあ、及第点でいいよ」
「だから、そう言うてたのに」
「まあ、そう怒るな。第一、お主が日頃から弟子には才能がないだの、出来が悪いだのずっと言っておったから素直にうなずけなかったんじゃないか」
師匠は、口をつぐむ。心当たりがありすぎる。
「蓋を開けてみれば、十分だったけど」
「才能はないぞ。貴族様の基準ならだが」
「それはそうじゃ。枝を作る固有魔法なんぞ、武の貴族には要らないね」
武の貴族は、長い歴史の中で血を集めることによって戦いに特価した竜卿を作り上げたのだ。その基準で言えば、枝を作り出す固有魔法なんて鼻で笑う程度のものだ。
「もっとも、魔狩りにとっては、固有魔法なんて飾りみたいなものだと思うがの」
「よく言うわ」
「本当のことだと、天眼も知っとるじゃろう。死ぬときは死ぬし」
歴代竜卿が、魔狩りを引退する理由は大体が魔獣との戦いに破れた結果、怪我を負うかもしくは死ぬかの二つだ。後継者が、しっかり育ってから引退できたものは、数えるほどしかいない。
「まあ、とにもかくにも」
先代竜卿は魔狩り天眼に、夜闇にも輝く金の瞳を向ける。
「このジュリウス・ディ・グノルの名で、白の矢を天眼の弟子、最も新しき英雄ケイトが使うことを認めよう」
「ありがたき」
それは、年老いた王がかつてより仕えた騎士に褒美を与える肖像のような一場面だった。
「それで、変態爺」
「なんじゃい」
「オレたち、いつまで岩を抱いていないとだめなんだ?」
「それは、アイシアが許してくれるまでじゃろうな……。滾る!」
だめだこの爺。師匠は、昔馴染みにゴミをみるような目を向けた。
やっと書きたいうちの一つにたどり着いた……