その九
「崩すか?」
「そうね」
塔をぶっ壊すことにした。良く考えれば、ばばあどもに高所をとらせているのが悪いのだ。
「どれくらいかかる?」
「うーん、今の私の体力から考えて……八ヶ所に印を刻んどきたいわね」
「つーことは、10分くらいか」
まあ、そんくらいならこいつを守りきれるだろ。
「それじゃ」
「ほいさ」
アイシアは、ある程度のあたりをつけて印を刻み始める。こういう建造物は、闇雲に爆破したら逆に時間かかったりするからな。
さてさて、バカ師匠どもを引きずり落としたらどうしてやろうか。内心で舌なめずりしつつ、俺は空に意識を向けた。
アイシアを守る簡単なお仕事です。つっても、俺達が塔の下にやってきてから、攻撃の雨は止んでるんだが。
なにが起きてるんだ。
「終わったわよ」
「そんじゃあ」
「どっかー」
アイシアが、起爆しようとした瞬間の事だった。空から、人が降ってきた。塔から飛び降りてきたのだ。
「っ!」
「なっ!」
未舗装の地面から、砂ぼこりが舞う。あの高さから、飛び降りて無傷ならばとんでもない身体能力だ。
やがて、二つの影が見える。俺は動けなかった。小柄な影の正体は分かっている。ばばあだ。
俺を動けなくしたのはもうひとつの影の持ち主だ。例えば、竜種に対峙したときのような威圧感。俺は、自然と棒を造り出した。この距離だと、矢をつがえる隙に殺られる。
大柄な方が、すっと膝を曲げる。来る!
「調子にのってすみませんでした!!」
「は?」
「流石に、ここを壊されるのは困るんです!」
きたのは攻撃ではなく、謝罪の一言だった。少ししゃがれた男の声だ。
「お祖父様……」
「え?」
「オレはまだ敗けてないからな!」
負け惜しみを言っているのは、ばばあだ。
「なにを言うとるんじゃ天眼!お主が、先に諦めたんじゃろうが!」
「あれは、お前の相性と色々考えてだな!」
「あのー、お祖父様とケイトのお師匠様、頭が高いです。あーあ、なんかこの辺爆破したい気分になってきたわ」
「「…………………!!!」」
流石アイシア、流れるように立場を分からせやがった。あと、思った以上にふちぎれてんのねお前。
それはそれとして、ばばあはどうでも良いとしてお祖父様?
この流れるように地面に顔をくっつけて謝罪してるのが、元史上最強?
まあ、取りあえず。
「ばばあ」
「なんだ、馬鹿弟子」
「ざっこwwww」
「くそが!」
「え、なんも聞こえないな。お、良いところに椅子があるな」
よっこいしょ。アイシアも座るのか。お前、実の祖父だろそれ(引き)。