その五
一番最初にやるべきは、雑魚たちをアイシアの方に引き付けることだ。俺たちは、巣を観察していたところから、一歩前に踏み出した。先ほどまで聞こえていた羽音よりも、ひときわ甲高くなる。これは、飛針種特有の警戒音だ。何かしらのきっかけがあれば、一気に俺たちを排除しようとするはずだ。
「じゃあ、派手にいくわよ」
飛針種は、熱を通して世界を認識する。その為、奴らを一か所に集めたいのなら火などを焚いてやればいい。しかしながらアイシアは、腰のポーチから石ころを取り出した。何の変哲もない石なのだが、こいつが少し手を加えれば立派すぎる火種になる。
俺は慌てて、その場から離れる。十分な距離を取ってから、
「よろしく!」
アイシアに大声で合図を出した。先ほどまでとは違って陽動するためなので、騒ぎ立てても一切問題がない。
アイシアは、石ころを投げた。ズッガーン!と、爆発音。この世でアイシアだけが持つ、あらゆるものを爆発させる固有魔法だ。果たして狙い通り、異物を排除しようとするエンペラーの労働者と兵士たちがアイシアに襲い掛かった。
◇
「うっわ」
アイシアの方を眺めながら、思わず俺はうめき声を出した。あまりにもワーカーとソルジャーが多すぎて、アイシアの姿が全く見えない。まあ、あいつがやられることは確実にないだろうから、心配はしてないが。
俺はというと、巣の中にこもっていらっしゃる女王二匹を引きずり出そうと、お仕事に励んでいる。
女王という個体は、巣において最重要な存在だ。それゆえ、よっぽどのことが起きない限りは、他の個体が女王を守ろうとする。なので、最初にやるべきは女王の親衛隊ともいうべきソルジャーと、他の魔獣を従えている調教師を狩ってしまえばいい。
やることは、アイシアとほとんど変わらない。巣の中に残っている連中を外におびき寄せて、仕留めるだけだ。ただ違うのは、
「俺はちまちまとしかできねよ」
一気に全部終わらせるのではなく、風向きに注意して右側に巣にいる個体のみをおびき寄せられるように火を起こした。
望んだとおりに、片方だけをおびき寄せることに成功した。特に鋭い針を俺に向けてくるソルジャーと、巣の周囲にいる四足獣類の魔獣を従えるテイマーたち。俺は一つ息を吐くと、前もって組み立てておいた小型の弓で、一匹のテイマーを撃ち落とす。
「それじゃあ、ほどほどに頑張ろう」
あっちで、大量のソルジャーとワーカに集られている、アイシアが早くこっちに来てくれることを願いながら、矢をつがえた。