その三
どうして俺がこんな目にあわないといけないんだ……。あんまりだ……。
それもこれも、
「マッドとギルマスが悪いな。よし、手始めに俺に関する資料を全て燃やして……」
「テロを起こすなら私が全力で止めるわよ」
「ぜんいんほろぼしておれはうまれかわる」
もうそれしか道はない。
計画をたてて、協力者も募らなければ……!
そして、罪を全部あいつらに被せれば万事解決だ。手始めにマッドとギルマスに恨みを持つ連中を……。
「ていっ!」
ごきゅっ!
「痛!」
「正気に戻ったかしら?」
気づけばアイシアは、腰に携えていた短刀を右手に持っていた。柄で、俺の頭を殴ったらしい。
「はい、ご迷惑をおかけしました……」
「分かってればよろしい」
危なかった。アイシアが、俺をこっちに戻してくれなかったら、本気で王都の行政部を襲撃しに行っているところだった。
「まったく……」
「いや、でもお前もこんなよく分からん名前つけられてみろよ」
多分『いい感じの枝』って呼び方の方が定着するんだぞ。
「私なら、速攻で名前を変えさせるわね」
「変えれんの?」
「ちょーと、派手めに行政部あたりで暴れたらいけるでしょ」
流石、暴力の化身。ちょーぶっそうだった。
◆
「そういや、これどこに向かってるんだ?」
「さあ?」
さあ?っておい。
「なんか、さっきから見られてる気がするのよ」
「え?」
「なんとなく、立ち止まると危なそうな気がするから、人気の無いところに行った方が良さそうなのよね」
えーと、それは襲撃されるということですかね。治安悪すぎない?ここ、サハイテじゃないよ?
「十中八九あなたのせいとおもうんだけど」
「それは、流石に風評被害が過ぎるんじゃねえかな。つーか、つけられてるなら最初から言えよ」
「んー、でもあなたは気づいてなかったでしょ?」
それはそうだ。今も、特に気配は感じていない。だが、アイシアが「見られている」と言うなら、そうなのだ。
ただ、俺がそいつらの気配を感じられていないと言うことは。
「そいつらとの距離が遠すぎる?」
「あるいは、私の勘違いね」
どうやら、アイシアも確信は持てていないらしい。うーん、俺としては勘違いを推したいのだが。
あー、もうめんどくせえ。
「立ち止まってみるか?」
「そうね。そろそろ誰にも迷惑かけなさそうだし」
「賭けでもするか?」
「いいわね。勝った方が負けた方を好き勝手にできるということで」
うーん、アイシアはもっと自分のことを大事にした方がいいと思うぞ。
いや、別に勝っても大したことはしないけど。