その二
その後、俺たちは何事もなく馬車から降りた。どこかに向かっているらしく、アイシアは俺の袖を摘まんで、少し前を歩いている。
俺は歩調を早めてアイシアの隣にいき、袖を摘まんでいるその手を俺の右手に繋ぎ直す。
「んで、さっきの質問の答えは?」
「んー、愛しのアイシアちゃんの顔を早く見せてあげようかなーって思ったのよ」
「へっ」
何をふざけたことを言ってるんだ。俺は鼻で嗤った。
「勝手に他人様の手に指を絡めてきたあなたが、そんな態度とっても説得力ないわよ」
「何の事かさっぱり」
「……まあ、別に良いけどね」
俺は、都合の悪いことは理解できなくなるタイプだ。
「もちろん、半分は冗談よ」
「なら、さっさとその半分の方を教えてくれ」
アイシアは、ニヤリと笑いながら俺の方を見て、
「あなた、王都で要注意人物に認定されているわよ」
「はぁ!?」
俺、ここに来るのめっちゃ久しぶりなんだけど?
「だって、新たに生まれた得体の知れない英雄さんですもの。どんな力を秘めているか知れたもんじゃないから、警戒されるに決まってるでしょ」
「ちょっと待て。俺英雄なんて扱いされてるの?」
なにゆえ。
「魔狩りの集団の先頭に立って魔獣の群れに突撃して、しかも全員を鼓舞して最後に勝ちどきまであげてたやつなんて、英雄に祭り上げるに決まってるじゃない」
「いったいだれのことなんだろーなーあははは」
わあ、お空が青いー!
「それと、あなたの固有魔法に名前がついたわよ」
「あー、そうか。そうなるのか」
俺たちが、一人ひとり持つ固有魔法なのだが、基本的にそれに名前は特にない。個人で勝手につけたり(大体皆一度は通る道だ)、強力な固有魔法であれば周りが勝手に名付けてそれが定着したりする。
後者の方は、ある意味で強さの証明みたいなものなので、固有魔法に名前がつくことは名誉でもある。
だが、ここにも罠がある。例えばアイシアと俺の場合が分かりやすいのだが、固有魔法を主体で戦うスタイルの方が、当然目立ちやすい。そのため、名前がつけられやすくなるのだ。
「あんな固有魔法に名前がつく日がくるとはなぁ」
「何だかんだで、喜んでるでしょ」
悪いか。
俺は、期待半分不安半分でアイシアに一番気になっていることを、問いかけた。
「それで、何て名付けられたんだ?」
「えーとね、公称が『万に分け、万を能うるただ一つの杖』」
おー、まあ、かっこ良いだろう。ギリギリ。贔屓目にみて。
ただ、いやな予感がする。
「公称ってなんだよ」
「長い名前には、通称がつけられるのよ」
あー、まあ呼びづらいからだろう。正直俺も覚えられていない。
アイシアは、ニッコリと笑った。
「通称は、『良い感じの枝』」
「………………………………ま?」
通称ダサすぎね。
絶対公称と通称つけたやつ別人だろ。
「因みに、あなたの二つ名は『良い感じの枝のカリスマ』らしいわ」
「死にてえ…………」
一体俺が何をしたというんだ。
アイシアは、俺を慰めるように肩をとんとんと叩く。爆笑しつつ涙を流しながら。
遠くの方で、鳥が『AHOOOOO』と鳴いた。