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その六

「さて、ケイト君気分はいかがてすか?」

「あぁ、最高だぜ☆」

「そうですか……」


おっとギルマス、どうして目をそらしているんだいだぜ☆


「これ大丈夫なんですか……?」

「多少の副作用に目を瞑るといったのは、ギルマスでしょう」

「それは、そうなんですが……」


一体何をこそこそ言ってるんだぜ☆

あー、全身に力が漲るぜ☆


「そ、それでは、ケイト君お願いしますよ」

「もちろんだぜ☆まかせておいてくれだぜ☆」


俺はやるぜやるぜやるぜやるぜ☆


アイシア・ディ・グノルという少女は、可憐と評する他ない外見をしている、とシノアは考える。圧倒的な実力をもって魔獣を圧倒し、その反面日頃は快活に笑い、くるくると動き回る彼女には、ファンが非常に多い。

今回の大氾濫でも、昨日一人で数千体の魔獣を葬り去って見せ、騎士団の各地への派遣を早めさせた。そんな彼女には好意や畏怖、あるいは恐怖が混じった視線が向けられている。

しかし、そんな周囲を気にすることもなく、彼女は今憂いに満ちた表情をしていた。

シノアは、アイシアの背後からそっと近づいて、イタズラを仕掛けようとし、


「きゃっ」

「あっ、ごめんなさい、シノアだったのね」


アイシアの背筋を指でなぞる前に腕を捕まれた。


「いえ、流石です」

「今は常に気をはっているからね。それで、どうかしたのかしら?」

「ええ、またケイトさんのことを考えていらっしゃるようだったので、茶化しにきました!」


本気六割だ。残りの四割は、アイシアを心配しての事だ。


「あなたね、私がそんなにずっとあいつの事ばっかり考えていると思ってるの?」

「違いましたか?」

「今は、間違ってないわね」


ほらみろ。


「もぅ、アイシアさんったら」

「いらっときたから、デコピンね」


クスクス笑いながら、シノアはそれを受ける。ガチで痛い。涙出てきた。額を押さえているシノアのことは、眼中にないようでアイシアは話し始める。


「シノアはさ、あいつがどんな奴だと思ってる?」

「アイシアさんの恋人です」

「もう一発いっとく?」


全力で首を振る。

ただ、あんだけいちゃこらしておいて、恋仲ではないなんていう方が無理があるとは、思うのだけれど。


「本当に違うから。で、真面目な話」

「うーん、優秀な魔狩りですかね」

「まあ、そうよね、普通に」


どうやらお望みの回答だったらしい。シノアとしては、面白味が無さすぎるのだが。

というか、今の質問の意図は何なのだろう。


「アイシアさんは、違うのですか?」

「ええ。あいつは、筋金入りの阿保よ」

「はい?」


日頃、といってもアイシア程の交流はないのだが、どちらかというと理知的なイメージで、アイシアの言う様な印象をもったことは、ない。


「あー、語弊があるわね。普段は確かに、上位の魔狩りの中でもトップクラスに理知的よ」

「そんなところがアイシアさんは?」


二発目のデコピンがきた。先より痛い。


「ただ、あいつはこういう状況になると、頭のネジが全部吹っ飛ぶのよ」

「は、はぁ?」


そんなことある?


「不味いな……」


カイの頬に、一筋の汗が伝う。

囲まれてしまった。自分の得物が、万全の状態ならこの程度の状況はピンチではないのだが、あいにく先ほどから、愛槍は黒い煙を吐いている。


「まあ、やれるだけやるしかないか……」


おそらく、ここが自分の死地だ。覚悟を決め、数体の魔獣に対峙し、


「やあ、カイ☆元気にしていたかいだぜ☆」


瞬く間に、一人の魔狩りによって、魔獣の個体が屠られていく。そいつは、ただの棒というか、木の枝で殴り殺していた。


「ケ、ケイトどうしたんだい!?」


同僚が、聞いたことのない喋り方で、謎のテンションで心底ビビる。というか、なんで弓使いの彼が、棒を振り回しているのだろうか。


「俺はいつも通りだぜ☆」

「ええ……」

「それじゃあ、俺は今から武器を配りにいくんだぜ☆」


彼の背後には、巨大な山があった。よくよく見てみれば、大量すぎる棒が積み重なっている。


「ぶ、武器を配るってどういうことだい!?」

「おいおい寝惚けてんのかいだぜ☆これに決まってるんだぜ☆カイにもひとつやるぜ☆」

「は、え、ちょ!?」


もう姿が見えなくなった。彼が通ったところに魔獣達の屍がつみあがっているので、居場所は分かるが。

呆然とそれを見送っているうちに、


『gooaaaaa!』

「うわっと」


ばしっ!


「え、うそ、すっげえ使いやすい……」


接近してきたいた魔獣を一撃で仕留められてしまった。


「この枝、何なの……?」


「あるのよ」

「は、はぁ」


アイシアには、シノアをからかっているという様子はない。

ただ、妙な重みがあった。


「無事にここを切り抜けて、機会があれば今回のサハイテの報告書を読んでみなさい。頭を抱えるか、お腹を抱えるか、どちらかの事態が起きているから」

「そ、そうします」


「お前ら、よくやったんだぜ☆」

「うぉぉぉぉぉー!!!!」

「俺たちの勝利だぜ☆」


一人の男が、枝を頭の上に掲げる。魔狩り全員がそれに呼応した。

その光景が、王都から派遣された監督官が見た光景だった。


「そうか、彼が今回生まれた英雄なんだな」


ぽつりと呟いたその声は、ついぞ木の枝を掲げた集団に届くことはなかった-。


第五十一次大氾濫、公称:獣乱舞、了。

ドーピング剤

意中の彼に対して素直になれない恋する乙女(ギルド職員、趣味:人体実験)が、本音を彼に伝えられるようにしようと思って開発

結果的には失敗で、せいぜい本性が少し露になる程度だった。ただ、副作用で魔力生成を助ける効果が現れた。しかし、危険すぎて非合法。

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