その三
ヨルネズクは、夜行性の魔獣だ。こいつは、飛行速度もだが、一番の特徴はその眼が夜闇に適応できていることだ。こいつと夜に戦うなら、まず魔狩りは少しでも明るい場所を選択すべきだ。だが、今は悪いことに雲が月を隠してしまっている。
「だー、もー!当たらねえ!」
しかも、何で群れでくるの!お前ら基本的には、群れないでしょ!
さっさと空から引きずりおとしてしまいたいのだが、俺の矢は悠々と躱されてしまう。そして、その間に距離がどんどん詰められていく。
「明かりさえあれば、仕留められる?」
「確実に」
「なら、ちょっと行ってくるね」
「は?」
カイは、一度馬の尻を叩いてから手を離して、右の手で主武装である槍を掴んだ。そして、どこをどうしたものか分からないが、ブオンと音を立てて槍の穂先が光る。
そして次の瞬間、飛んだ。
「は?」
飛んだのだ。ジャンプするとかそんなのではなく、宙に浮いてそこで体勢を維持しつつ移動する。
「照らすよ!」
「お、おうっ!」
いつまでも、アホ面をしているわけにはいかない。気を取り直して、弓を構える。
まずは、先頭の一体。落ちる。群れが混乱している間に、狙いもそこそこに矢を射つ。そして、ついに俺の手持ちの矢が尽きたときには、ヨルネズクの群れは、もはや統率を失っていた。
◆
「何あれ」
「新機能、因みに元にした魔法はアイシア様のやつ」
「なるほど?」
カイが、馬の尻を叩いていたのは、真っ直ぐに走れという指示を出すためだったらしい。燃料切れで空から降ってきた大男は、無事に馬に拾われていた。分かっていたけど、やっぱりこいつら賢いな。
「爆風を利用して飛んでたんだよ」
「そうか……いやまて、アイシアでも空は飛ばねえよ!?」
「君がアイシア様と狩りに出るときは、空のやつは君が射ち落としてるから、見たことがないだけだよ」
「まじか」
えぇー、あいつそんなことを普段はやってるんだ……。今度見せて貰おう。
「そうしな。それはともかく、これで抜けられたかな?」
「ああ、取りあえずヨルネズクはもう大丈夫だ」
「じゃあ、さっさとサハイテにいこう、か!」
足元からよじ登ってくる魔獣は、馬が蹴り飛ばし飛びかかってくるやつは、俺は短刀でカイはその爆発機構組み込み槍(長い)で、切り払う。
しばらく馬を走らせて、ようやく篝火が見える。
サハイテだ。そしてそこは紛れもなく、
「近接武器、前に並べ!」
「怪我人はこっちに集めてきなさい!」
「空からくるぞ!気を付けろ!」
人対魔獣の戦いの最前線だ。