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サハイテ防衛その一

その後俺たちがどうしたかというと、移動手段がこちらに届くまで待機することだった。いち早く街の防衛に駆けつけたいという思いは、無論あるが所詮人間の移動速度などたかが知れている。なので、逸る気持ちは抑え込んで今は体を休めることが先決だ。


「馬がこちらに来るのは、午後でしょうか?」

「それくらいになりそうね」


先ほどの鳩に、俺達の現状を説明したメッセージを届けて貰った。今頃、会館に到着してギルマスが確認している頃だろう。


「それでは、明日は馬が到着次第私とアイシアさんは、王都に行くということですね」

「そうね」

「あれ、カイは王都に行かないのか?」


珍しい。大体シノアとセットなので、今回もそうだと思っていた。


「振られちゃいました」

「お嬢、言い方悪すぎますよ……そんな目で見ないで欲しいなぁ、そこの二人」


冗談だ。少なくとも俺は。


「王都に行っても、僕の役割は置物にしかならないだろうしね。それならサハイテにいた方が役に立てる」

「置物は、言いすぎだと思いますけど、王都の主戦力は騎士達ですから」

「あら、私も魔狩りだけど?」

「アイシア様は、色々と別枠過ぎますからね。第一、貴族ですし」


さて、一通り必要な話は終わっただろう。俺は、胡座を崩して立ち上がる。


「どちらに?」

「ちょっと竜のとこまで」

「あ、なら私も行くわ。シノア達は、ここにいててね」


アイシアと一緒に、外に出る。少し雲が出ていた。


横たわっている竜に、黙祷を捧げる。魔狩りをしていくなかで、自然と身に付いた習慣だ。


「さて、今回は剥ぎ取るわけにいかないしな」

「うーん、せめて革くらいは欲しかったんだけどね」


命を奪ったものは、しっかりと最後まで活用するのが礼儀なのだが、今回ばかりはそうもいかない。


「それにしても」

「うん?」

「あなたが、あの二人に気を遣うとは思わなかったわ」

「は、どういう意味だ」

「あー、そうね。あなたはそんな奴だったわね……」


すげえ馬鹿にされてる気がする。


「あなたが勘が良いのは、魔獣関連か私絡みだけだもんね」

「まあ、アイシアは実質魔獣みたいな……ごめんなさい調子に乗りました」


いや、ほんとに悪かった。だから、俺の肩部分をミシミシいわせるの止めて。食い込んでるから、タイリクガザミの硬皮使ってるのに、そこに指が刺さってるから!

だが、アイシアはガッチリと俺の肩を固定したままだ。何やら小さく「よし」と呟いてから、顔を近づけてくる。

ヘッドバットに、そこまで気合いいれないで欲しい。

俺は衝撃に備えて目をつむる。だが、俺が実際に感じたのは、右頬へのふわりとした柔らかい感触。俺が目を開けると、額同士が触れあう距離に金の瞳があった。


「……アイシア?」

「あなたには、呪いをかけたわ」

「呪いって、お前」

「だから、あなたも私にかけなさい」


そう言って、アイシアは瞳を閉じる。親指で、彼女の唇をひとつなぞって、右頬に口づけた。風の音が、二人の間を通過する。

アイシアは、瞳を閉じたままでコツンと、額をぶつけてきた。


「こっちじゃなくてよかったの?」

「未練は残しとくべきだろ、(まじな)いなら」


それもそうねと、ふわりと笑ってアイシアは俺の肩に添えていた両の手をそのまま俺の背中へとまわす。俺も、それに倣った。

雲の隙間から現れた月が、眩しいくらいに辺りを照らした。

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