その八
話進まなかった……
こんな洞穴のような場所では、明かりをとるために火を焚くことは自殺行為だったりする。例えば、とある竜種は可燃性のブレスを吐く。そんなものが溜まっていたら、火をつければ一発でドカンだ。さっきのアイシアの爆発に関しては、極力火を発生させない用に調整していた、と信じている。いや、だってあいつ希にくっそ雑なことするし。
ここにはあれほどの魔獣が生息していることから、充分な空気があるとは思うのだが万が一が恐ろしいのでやめておくに越したことはない。ということは、選択肢は誰かしらの固有魔法に頼るか、魔器具を使うかなのだが、俺たちは光系の固有魔法持ちではない。従って、後者の方法しかないのだが、いかんせんそんな都合の良い魔器具なんてこの場には、
「さあさあ、取り出したりまするは、こちらの最新型光生符」
「えー、そんな小さいもので辺りを照らせるんですか?」
突然芝居がかった物言いをするカイに、アイシアが乗っかった。
「使い方は、とっても簡単、ここの紋様に手を当てて、そして破る!」
大仰な仕草で、魔術加工された紙を破いた。すると、すぐに光が溢れだした。
「わーお、これなら突然の暗闇でも、心配ないわね。でも、どうせすぐ消えちゃうんじゃないのぉ?」
「何と!一晩中照らし続けても大丈夫!」
「きゃーーーーー!でも、お高いんでしょぉ?」
「何と、お値段最上級光属性矢一本分!」
「これは、買いね。取りあえず、サインで良いかしら?」
アイシアはそんなことを言いながら、カイから渡された筆記具で名前を記入していく。俺の名前で、勝手に契約してやがる。
「毎度あり!やっぱりアイシア様は気前が良いですね」
「そりゃそうよ、良いものにはそれ相応の対価を、というのは基本よ」
もう良いだろう。俺は、馬鹿二人の頭をはたいた。他人の名前を勝手に使ったアイシアは、グーでやる。
「……満足か?」
「「はい……」」
「それとアイシア、他人の名前を勝手に書くな」
「でも、どうせ買うんでしょ?」
「それとこれとは別だ」
今度は、ミョーンと頬をつねる。相変わらず良く伸びる。
「はひふやへひひよほ」
「なに言ってるか全然分からん。あと、シノアが回復次第方針をまとめるということでよろしいか、竜卿殿?」
慇懃無礼に問いかけた。喋りやすいように、完全に伸ばすのでなく、弛めてやる。アイシアは、頬に添えている俺の手を両手で包む。
「それで問題ないけど、馬鹿にされてる気がする」
「気がするんじゃなくて、実際に馬鹿にしてんだよ」
「心外ね」
視界のはしの大男は、俺達のやり取りを遠い目で眺めていた。え、苦い飲み物欲しいって?なんだ急に。