その六
何やらテントの外が騒がしい。俺は半ば強制的に、覚醒させられた。まだ、外は暗く夜と言っても問題ないだろう。
俺の胸元に顔を埋めているアイシアも、気づいたようだ。俺から僅かに遅れて、上半身を起こした。
「おはよ」
「この時間に、おはようってのもおかしな話だな」
「覚醒」
「うん、俺が悪かったわ。おはようで良いわ」
そんな風に軽口を交わしつつ、俺たちは手早く身支度を済ませる。何か異常事態が発生しているのかもしれない。
俺が弓入れを腰に装着し、アイシアが竜卿のコートを羽織ったのは、同時だった。
「行くわよ」
「あいあい」
目で合図をだす。三、二、一、今!
勢いよくテントを飛び出した俺たちが目にしたものは、
「出てきたぞ!」
「誰か聞け!」
「ここは、胴元の研究所ので良いんじゃねえか」
「皆さんしかたがないですねー、それではカイ張り切ってどうぞ!」
「お嬢、自分で言ってくださいよ」
バカどもだった。奥から、ゆっくり歩いてきたカイの手には麻袋が握られている。何となく中身が分かった気がする。
「全く、しょうがないですね。アイシアさん、ケイトさん」
「「あ?」」
「あら、やだ、柄が悪いですわよ?」
黒幕っぽい紫髪の馬鹿を、二人で睨み付ける。だが、シノアは飄々と受け流す。そして、
「ケイトさんはいかがでしたか?」
「その質問の意図によっては、竜卿の権限を濫用することになるわね」
「そこでムキになられるということは、やはり……」
「何もないわよ!」
アイシアのその言葉に、数人が大きくため息をついて、他の数人は小さく歓声をあげた。
あー、これは。
「そうなんですかケイトさん」
「殺すぞ」
「え、やっぱりあの添い寝の後に、お二人は」
「訂正する。何もねえよ!」
俺がそう断言すると、先ほどため息をついた奴らは、膝から崩れ落ちた。大方賭けの内容は、俺とアイシアが一線を越えたか否かだったのだろう。
「うそだろ……」
「何で添い寝までして……まさか、会館付きは」
おいこらそこ、全部聞こえてんだよ。不能とか言うんじゃねえ。
◇
そんなこんなありつつ、全員集合したので予定より大幅に早いがそのまま出発することになった。因みに、賭け金は俺とアイシアが半分巻き上げた。
今、馬車の中は俺とアイシアだけだ。研究所コンビは、勝手に俺達を賭けの対象にした罰として揺れる御者台で過ごして貰う。
「まったく……」
「本当にな」
「そのせいで、環境種の話切り出しにくくなったじゃない」
どっちかというと、あの連中からの追求が煩わしくなって無理やり馬車に押し込んだ俺達が悪いと思うのだが。
今さら言っても仕方がない。切り替え大事、と現実逃避ぎみに、アイシアに話しかけた。
「まあ、昼過ぎに一度休憩がとれるだろうからそんときで大丈夫だろ」
「そうするわ」
だが、結局それを伝えることはできなかった。俺たち調査隊は、竜の巣に到達する前に分断されてしまったからだ。