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その三

早いうちから仮眠をとったので、出発時刻より大分余裕をもって目覚めることができた。ベッドの方を見ると、アイシアの姿はなく一旦自分の家に帰ったようだ。


「てか、最初から自分の家で寝ろよ……」


本人は、「あなたの家の方が落ち着く」何て事をほざきそうだから、絶対に言わないけど。


(腹になにかいれとくか……)


俺の場合、家を空けることが非常に多いため、常備されているものは日持ちがする野菜や、穀物の類いだ。いくら長持ちするとはいっても、芽が出てだめになったりということになりかねないので、なるべく自炊することにしている。そんなわけで、台所にやってきたのだが、


「あら、お目覚め?」

「ああ……って帰ってねえのかよ」

「んー、お腹空いたし、私のうちに今なにもないから」


アイシアが勝手に人の家で料理をしていた。


「ほら、恵んであげるわよ」


鍋をかき混ぜながら、スプーンを差し出される。どうやら、味見しろと言うことらしい。口に含んだ。熱い。

感想を言ったところで、アイシアに流されかけていたことに気づいた。


「恵むって言うか、もとから俺の食材だろ……」

「要らないの?」

「いる」


程よい塩加減のスープは旨かった。というか、アイシアに舌が慣らされてしまっている感が最近否めない。


今度こそ、アイシアは家に帰った。一人になったわけなのだが、装備の確認時間を加えても出発時間まで相当ある。


「せっかくだし、風呂入りに行くかぁ」


どうせやることもないし、公衆浴場でさっぱりするのも悪くないだろう。本格的に身支度を終わらせて、会館へと向かった。



「あー」


広い浴槽で、手足を伸ばす。自然と声がもれた。夜も半ばといったところなのだが、意外と人は多い。大体一仕事終えた連中だ。

グデーと浴槽の淵に凭れていると、声をかけられた。


「やあ、ケイト」

「んあ、カイか」


研究所所属の大男だ。仕事の時以外は、寡黙な男が珍しい。


「なんだ、これから仕事か?」

「うん、というか君たちと一緒だよ」

「あー、なるほど」


そういえば、研究所からも人手が派遣されるって言ってたな。


「つーことは、シノアも?」

「もちろん。今回の調査は、研究者の方もある程度動けないと危ないからね」

「そりゃそうだ」


竜の巣に行くのだ。戦えなくとも最低限走れるやつの方が望ましいだろう。


「じゃあ、僕は先に上がるからごゆっくり」

「おう、また後でな」


カイの背中を見送りつつ、ため息を小さく吐いた。


「あいつ緊張してやがるな」


基本的に人間が、口数が多くなるのは酒が入ったときかあるいは喋らずにいられないというときだ。きっと今回は後者だろう。

間違いなく研究所の方が、今回の依頼に関しては情報を多く掴んでいる。昨日のギルドマスターの「人類の危機」という言葉を思い返す。


「気合いいれますか」


両の手で頬を強めに叩いた。


風呂から上がり、装備を全て身につけたたときには、丁度良い時間になっていた。あらかじめ言われていた集合場所に向かう。

そこには、既に何人か今回のメンバーが集まっていた。

ギルドマスターに声をかけられた腕利きの魔狩りが数人。


「やあ、さっきぶり」

「私は、お久しぶりですね、ケイトさん」

「おう、よろしく」


大男と、紫髪の研究所コンビ。


そして、有事にのみ装備が許される純白のコートを身につけた竜卿、アイシア・ディ・グノルが、そこにはたたずんでいた。

先ほどまで、俺の家で勝手にくつろいでいた女の面影は微塵もない。そこにいたのは、人の到達点でありもはや特異点足る存在であった。


「さあ、行くわよ」


竜卿のその一言が、今回の依頼の始まりだった。



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