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竜の巣探索その一

執務室には、しかめっつらのギルドマスターとそれに向かい合う形で金髪の女、アイシア・ディ・グノルが座っていた。

まだ、ギルドマスターとアイシアは、穏やかな雰囲気が漂っていて「依頼」の話は始まっていないらしい。


「ご苦労様でした、ケイト君」

「おつかれ様」

「お、おう」


和やかに声をかけられて、少し戸惑う。アイシアが、となりに座れという風にソファを叩くので、それにしたがう。もうちょいつめてもらって良い?


「さて……」


俺たちの、ソファの上の領土争いを冷たい目で見ながらギルドマスターはそう切り出した。


「ひとまず、ケイト君の報告からお願いします」

「ああ、もう聞いていると思うが、依頼達成が出来なかった」

「はい、ツキイロモリオオクマがマモノ化してしまったということも、知っています。その上で、ひとつお聞きします。()()()()()()()?」

「異常だった」


俺は一息に言いきる。例えば、マモノ化したあいつは明らかに強化され過ぎていた。また、出現場所もこれまで知られていなかったといえばそれまでだが、代々の魔狩り達が一切知らなかったというのも不思議ではある。そして何より、


「マモノ化が早すぎる」

「やはり、ですか……」


そうなのだ。マモノ化は、通常長い期間を経てようやくその現象に気づけるというものなのだ。それが、俺が目を離した少しの間に、ほぼ完全にマモノ化するというのは通常あり得ない。


「やはりって言うことは、何か気づいていたのかしら?」


アイシアが、ギルドマスターに問い掛ける。


「ええ、近頃少し異常な個体が増えていると思いませんか?」


俺と、アイシアは顔を見合わせる。


「エンペラー種同士の服従」

「この前の、焼き討ちの新種の発見」

「そして、先日アイシアさんにお願いしたタイリクガザミの撃退もですね」

「何だそれ?」


初耳だ。アイシアは、肩を竦めつつ答えてくれる。


「ちょっと甲羅が堅くて、なかなか逃げ出してくれるまでダメージを与えられなかったのよ」

「お前が堅いって言うなら、相当だな」

「ええ、砂漠の地形を変えたという苦情が来ました」

「うわぁ」


相変わらずの破壊力というべきか、それほどの威力を必要とするタイリクガザミが堅すぎるというべきか。いずれにせよ、俺もアイシアもそういった特殊な個体に遭遇しているということだ。


「他にも、いくつか報告がきてまして、ここまで数が多くなると偶然とはとても言い難い」


ですので、とギルドマスターは続けた。


「お二人には、竜の巣へ調査に出向いていただきたい、そして」

「一つ良いかしら」


アイシアは、まだ言葉を続けようとしていたギルドマスターを遮る。目を伏せてから、もう一度顔を上げたとき、アイシアの瞳は金に煌めいていた。


「それは、上級の魔狩り一名と」


チラリと、俺の方を見る。そして、


「竜卿に対する依頼ということかしら」


ビリビリとした空気を感じる。アイシアが放つそのオーラは、ヒトと言うよりは強大な魔獣のものに近い。隣に座っている俺ですら、これ程の威圧感があるのだから、直接向けられているギルドマスターには、相当なものがあると思うのだが、流石というべきかギルドマスターは少なくとも表面上は平成を保っている。そして、しっかりとアイシアを見据えて、


「はい、人類の危機が迫っている恐れがあります」

「間違いなく?」

「調査せねば確定はしませんが、最大戦力を投入すべきと考える程度には、可能性が高い」


しばしお互いににらみ合う。そして、ふっとアイシアが肩の力を抜いた。


「悪かったわね、これも決まりなのよ」

「いえ……」


竜卿は、絶大な力を持っている。本気を出せば、国一つ余裕で滅ぼせるだろう。それ故に、竜卿が動くということには、それなりの責任が伴う。それは、竜卿本人も依頼者にもだ。アイシアの言う決まりというのは、覚悟の程を試す先ほどのやり取りのことだ。


「それでは……」

「ええ、竜卿たるアイシア・ディ・グノルが、会館の長からの依頼を確かに引き受けるわ」

「ありがとうございます。それで、ケイト君はどうでしょうか」

「あんな啖呵見せられたら、引き受けないわけにいかんだろう」


ここで、ようやくギルドマスターはこわばった表情を少し緩めた。


「では、お二人には二日後に竜の巣に向かって貰います」

「分かった」

「承ったわ」


今回の依頼は、それなりに大変なものになるだろうと言う確信がある。しっかりと準備していかないとな。俺とアイシアはソファから立ち上がる。ひとまず、食堂で飯が食いたい。


「……それと、もう一つ良いですかね」

「何だ?」

「まだ何か?」

「その、腰が抜けまして、たたせてもらえますか?」


アイシアとギルドマスターは、非常に気不味そうにしながら、全員で仲良く階段を降りることになった。



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