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その四

生け捕りという依頼は、ある意味で討伐よりも技術が求められると、俺は思う。単純な話、魔獣を弱らせ過ぎて死なせてしまうとその依頼は失敗になる。また、傷を与えすぎると、衰弱が早まるので狩り場で生きていたとしても、輸送の間に死んでしまうこともある。

つまり、生け捕り依頼を達成するには、対象になっている魔獣の状態から、その生命力のギリギリを見分ける眼が必要になるのだ。そのためには、攻撃を加える部位や力加減、魔獣に対する正確な知識が必要だ。


俺の数日に及ぶツキイロモリオオクマ捕獲依頼も、いよいよ大詰めを迎えていた。


「gruuuuuuuuu!」

「当たらねーよ」


振り回されたその腕は、もう最初の頃のような精細を欠いている。長い時間をかけてちまちま体力を削り取ってきた甲斐があった。なるべく毛皮を傷つけないように、最小限の攻撃をしていたので、奴の消耗具合に反してその肉体はきれいなままだ。まあ、ある程度自力で回復してるのもあるのだが。


「guuuuuuuuuu」

「そろそろ疲れただろ、こっちにおいで」


自己回復能力を持っているとはいえ、代償がないわけではない。血を流しすぎれば、身体の動きは鈍くなるし、単純に体力も尽きやすくなる。もう十分だと判断した俺は、いよいよ落とし穴に奴を誘導することにした。弓を背負い、奴に背を向けて一目散に逃げる。


「guoo」

「ほれもうちょい」


チョロチョロ逃げ回る俺に腹を据えかねたのだろう、技もへったくれも無い、ただその体躯を生かした体当たり。だが、動きも遅くなっており大した驚異にはならない。ひょいっと回避した。


「guoaaaaa!」

「おっと」


すぐに体勢を立て直したツキイロモリオオクマは、俺を押し潰すべく飛び掛かってくる。だが、それを予測していた俺は膝をしっかりと曲げて後ろに大きくとんだ。そして、


「あんまり跳び跳ねると、地面がなくなるよ」

「gru!?」


奴が着地すると同時に、その姿が見えなくなる。見事狙いどおりに落とし穴に嵌まってくれた。俺はそれを確認するや否や、穴に催眠効果のある煙玉を投げ入れた。


「おやすみなさい」


一件落着だ。


煙玉が効果を発揮するまでの間に、会館への連絡を済ませるため、俺は野営地に戻ってきていた。一人であんな奴を持ち帰られる訳がないからだ。ついでに、今回見つけた森の奥地の池への地図もバッチリ描いておいた。


「よろしく」

「pou pou!」


白いフワッフワの伝書鳩は勢いよく空へと飛び立つ。まもなく、会館から人手を派遣してくれるだろう。

それを見送った俺は、落とし穴のクマの様子を確認するために、先ほどまで死闘を繰り広げていた地点へと急いで戻ることにしたのだった。


「嘘だろ?」

「guo guo gugyaaaaaaaaaa!」


信じられない。煙玉が効いていなかった。それだけならまだ良い。いや、良くないのだが、他のことに比べると些事だ。


「なんで、ここまで上がってこれるんだ、よ!」

「gooooooooooooooo!!!!!!」


体毛は、光を一切通さない黒へと変化し、体力は完全に回復したようだ。


「gugegegge」

「…………っ!」


間一髪で避けた腕の振り下ろし攻撃は、そのまま地面を抉りとる。スピードも威力も、下手すれば万全な状態のツキイロモリオオクマを超えている。信じられないことだが、一つだけこのようになる現象に心当たりがある。すなわち、


「マモノ化かよ……!」

「gururururyryryryryryruuuu」


二度目の闘いの幕が上がった。



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