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その二

 野営地に戻った時には太陽はすっかり沈んでしまい、闇が濃くなってきた。バチバチと火が爆ぜる音がする。俺は先ほど解体したばっかりの草食魔獣の腿を焼いている。じゅうっと、肉が焼ける音が暴力的なまでに空腹な俺に襲い掛かる。


「もういいだろう」


 がぶりと肉にかぶりつく。ぶつりと皮をかみ切ると、口の中に肉汁が広がった。本来なら、数日熟成させる方が、肉の味が良くなるのだがそんな贅沢は狩場では言ってられない。ただ、一つ惜しむらくは、

 

「もっと塩持って来ればよかったな……」


ここまで食料が切迫する予定はなかったのだ。


 話は、五日前にさかのぼる。その日の俺は、手ごろな依頼を二件ほど達成して会館へと戻ってきた。受付で依頼完了の手続きをしているときに、我らがギルドマスターに声をかけられたのだ。


「ちょうどいいところに帰ってきてくれましたね!」

「ひえ」


 なんでも、程よい実力持ちの魔狩りが全員出払っていてようやく俺が捕まったらしい。目が血走っているから少し怖い。


「このまま、森の方に行ってください早急に」

「ちょっと待とうぜ、せめて何の魔獣を相手にするかを、教えてくれ」

「ツキイロモリオオクマの生け捕りです」

「ああー?」


 なるほど、駆け出しの魔狩りには少し難易度が高いかもしれないがそれでも誰も捕まらないのはおかしな話だ。一定の経験を積んだ魔狩りならば、誰でもこなせる程度だ。


「それがですね、誰もこの依頼を達成できないのですよ」

「は?」

「そんな反応になるのも分かります。最初に依頼した魔狩りは時間切れでした」

「そいつ、初心者か?」

「いえ、十分なベテランでした。なんでも見つけられなかったそうです」


 クマ系を相手取るときには、まずその個体の痕跡を見つければ良い。ベテランなら、その辺の勘所を理解しているはずなのだが。


「そして、二人目も同じ理由で」

「は?」

「ええ、そうなるのもうなづけます。ということで、今回の依頼には期限を設けないので、意地でも達成してください」

「期限なしって……俺、そろそろ家に帰りたいんだが」


 めんどくさそうな気配を感じた俺は、逃げの一手を選択する。しかし、ギルドマスターの野郎はがしりと肩を掴んで、ついでに他の会館職員に指示をして俺を羽交い絞めにした。


「もう、あなたしかいないのですよ」


 それは悲痛な叫びだった。涙目で叫んでいた。男の涙に興味がないのだが、哀れさを誘う効果は十分に発揮されていた。


「わ、わかったから。おっさんの涙に需要はどこにもないぞ」


 そんなこんなで、俺は会館で必要になるであろう器具一式を借りて、ついでに塩漬け肉などの保存食を購入して目的地である森にやってきたのだった。ただ、俺は舐めていたのだ。


「痕跡はあるのに一切出会えないんだよな……」


 予定滞在日数は、余裕で超過。しかし、無期限の依頼であるためここから帰るわけにはいかず、食料は尽きてからは、狩り暮らしを余儀なくされたのだ。

 明日は、もっと森の奥に踏み込もう。まだ見ぬ森のくまさんに思いをはせながら、俺は目を閉じた。

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