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その二

 俺ことケイトは、近頃極めて不運だった。討伐依頼を受けてみれば、お目当ての魔獣とまったく出会えずに、通常三日で終える依頼に十日ほどかける羽目になった。そしてようやく依頼を完遂し、自宅に戻ってみれば屋根に大穴が開いていた。

 修理を頼んだらあまりにも家がぼろすぎて全部修理した方がいいという話になり、連日の忙しさで金銭感覚がばかになっていた俺は、「それなら、全部立て直しちゃってください!」と気前よく注文してしまったのだ。結果、手持ちの金はすべて消え去った。

 さらに、立て直すということで自宅はすっかり解体されてしまったので、今の俺は暫定宿無し金なしになってしまったのだ。

 そこで、せめて小金を稼ごうと思い黄金草の採取依頼を引き受けて草原に繰り出してみれば、貴重な黄金草を踏みつぶそうとしていたアホな女がいたわけだ。


「……なによ」

「いや、なにアイシアに蹴られた尻が痛んでるだけだ」

「悪かったわよ……。だから、今ごちそうしてるじゃない」

「誠意が足りん」


 どうせならもっとたかっておこうと、少しあおってみる。アイシアは、手に持ったフォークを俺の手の指の間に、勢いよく突き刺した。あ、だめだ、相当気が立ってらっしゃる。


「あら、手が滑ったわ。それで、乙女を草原で四つん這いにさせたうえに、私の貴重な睡眠時間を奪った分際でまだ何か欲するのかしら?」

「調子に乗りました。何も望みません」

「よろしい」


 この時期の魔狩りは、基本的に気が立っている。やはり、睡眠を削るのはよくない。

 アイシア様から、ピリピリした空気を感じるので、俺は話題を変えることにした。


「そ、そういえば、アイシアはなんであんな所で、さぼろうとしてたんだ?」

「さぼってない、ちょっと体を休めようとしただけよ」

「ふつうはそれをさぼるっていうと思う」

「うるさいわね!それで、質問の答えだけど、針が足りなくなったのよ」

「針?」


 針は、俺たち魔狩りの間では二つの意味を持つ。一つは、道具としての針。一般的に裁縫とかで使われる奴だ。

 そしてもう一つは、主に武器の素材となる魔獣が持つ針だ。これは、基本的に飛針類のものが当てはまる。飛針種のもつその針は、硬くて丈夫さらに軽いので、非常に需要が高い。だが、そんなにうまい話ばっかりではないのだが、その話はまたあとでいいだろう。

 とにかく、アイシアはその針が欲しかったようだ。


「そうなのよ。私の愛剣のメンテナンスをそろそろしようと思ったのよ」

「愛剣っていうか、あれ釘付きのこん棒だろ」

「持ち主の私が剣って思ってるから剣よ」


 とんでもない暴論なのだが、いちいち引っかかっていたら話が進まないので、流しておく。


「それで今日はいつものとは違う片手剣を装備してたのか」

「ええ、私の愛剣はあいつらの討伐に向かないしね」

「なるほど」


 たしかに、こいつが得意とする闘い方では、針を採取するどころか魔獣本体が、木っ端みじんになってしまうだろう。


「ところで……」


 アイシアは、テーブルに置かれてあるカップを手に持ちながら、俺の方を見た。嫌な予感がする。


「あなた、今日依頼を終えたばっかりということは、明日は何も引き受けてないわよね」

「そうだが、お前の手伝いはしないぞ」

「あなたの家が建つまでの宿と、今日、明日の食事の提供でどうかしら」

「ぐっ」


 この女、俺が文無し家無しな状態であることに付け込んできやがった。だが、これくらいの報酬では、まだ針集めの面倒くささが勝っている。というわけで、俺は断ることにする。


「悪いが」

「あ、針以外は、あなたが好きにしてもいいわよ」

「お手伝いさせていただきます」

「契約成立ね」


 そういうことになった。

 この時期の飛針類の卵は、高値で売れる。ちくしょう、メリットが上回りやがった。

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