モリアオタケ焼き討ち依頼 顛末
「それで、帰還が遅れたのね」
「ああ……カイはともかく俺まで残されて、研究所の奴らと一緒に異常個体の引き上げをやらされたんだよ」
「で、そっからまた別の依頼に駆り出されていたと」
「この時期はなぁ……まだ一徹だからセーフだ」
「勝ったわね、私二徹よ」
うふふふふふ、と二人虚ろな笑いを浮かべる。この時期の魔狩りあるあるだ。
所変わって、いつもの会館の食堂だ。なんやかんやあって、焼き討ちに出発してから、十日たっている。目の前に座るアイシアと、例のごとく偶然遭遇して、そのままいっしょに飯を食うことになったのだ。
「聞いてたところ、その異常個体相当な大きさだと思うのだけれど、どうやって引き揚げたのよ」
「潜って足やらいろんな所に縄をくくって、そのまま人海戦術で」
会館から、力自慢の魔狩りたちの派遣がなければ未だに異常個体は沼の底だったろう。何でも、シノアが余計な支出を渋る研究所の上層部を説き伏せて、追加募集してくれたらしい。
「ものすごい力業ね、文字通り」
「そうだったんだよ」
なんか便利道具とか使わせてくれるなんてことはなかったのだ。
「ところで、胞子症の調子はどうだ?」
「ご覧のとおり、絶好調よ。焼き討ちのお陰ね」
その言葉通り、以前みたいな不審者丸出しの覆面はしていない。最も、目の下に隈がしっかり出来ているので、体調は悪そうに見えるのだが。
「あなたの言う異常個体を討伐してくれたお陰かしらね」
「いや、違うらしいぞ?」
「え、そうなの?」
感謝して損したみたいな顔をするな。焼き討ち自体の効果はあったのだ。なんせ、今回はほとんど全てのモリアオタケの焼却に成功したのだから。
「まず、もともとヌマツチモドキは大量発生していたらしい」
「あら、そうだったのね」
「で、そこにヌマツチモドキの異常個体が出現して、俺たちが沼に行った時には、半分くらいが食われてたらしい」
そして、たまらず陸上に逃げ出した残りのヌマツチモドキは、俺たちが焼き払ったというわけだ。
「共喰いしてたのね」
「らしいぞ」
「その話なのですが」
「「うわっ!」」
「厳密には、共喰いではないようなのですよ」
突然、ぬっと現れた紫髪の女、シノアに俺たちは、普通に驚いた。カイは、仕事中とはうってかわって無言で二人ぶんの椅子と机を運んできた。俺たちが飯を食っている机に、引っ付けるつもりらしい。
「あ、すいませーんステーキ二つで!」
どうやら昼飯らしいのだが、店で一番高いメニューを頼むとは羽振りが偉くいいな。因みに俺とアイシアは、日替わりランチ(最安メニュー)だ。
「あ、ケイトさんお礼が遅れました。焼き討ち部隊のリーダーを務めていただきまして、ありがとうございました」
「まあ、いつものことだし」
「いえいえ、はじめて遭遇する魔獣相手に立派な指揮をとられたそうで」
何か偉く持ち上げられている。割りと本当になにもしてないのだが。何なら、カイの方が遥かに活躍していたまである。
「それで、共喰いではないってどう言うことなのよ」
「ふぉふはやはへふほはひは」
「飲み込んでからで、大丈夫よ」
アイシアが呆れたように言う。見た目だけは、高貴な淑女である二人は昔から仲が良い。アイシアに睨まれた。こいつ、まさか俺の思考を……!
シノアは、カイに口許を拭われてから、それに礼をしてから改めて口を開いた。
「便宜上異常個体と呼称しますが、あの個体はどうやらヌマツチモドキとは違う種類ということが判明しました」
「新種?」
「ええ、つきましては命名権が、焼き討ち部隊のリーダーであるケイトさんにあるのですがどうされます?」
「カイに任せた」
「分かりました、ではカイさんが良い感じに名付けます」
カイは自分にお鉢がまわってくるとは思ってなかったようで、ブンブン首を横に振っている。まあ、お前に拒否権はない。
「それでですね、丁度よかったのでお二人にこれを渡しておきます」
シノアは、なにやら瓶を二本手渡してきた。中には、粘り気のありそうな液体が入っている。
「あー、粘液採取したのか」
「ええ、お二人なら良い感じに活用してもらえると思いますので」
あれほどの防御力を発揮した粘液だ。それなりに悪巧みが出来そうだ。俺は素直に礼を言った。
え、アイシアさんなんでそんなに赤面してらっしゃるのですか?ちょ、まってなんでバンバン叩かれるの?!!