王都編:たのしいぱーてぃー
白。
白いドレス。
白は、竜卿の色だから、それは当然ながらアイシアに良く似合う。
肌は極力露出が抑えられていて、でも決してやぼったく感じない。
いつもは無造作に束ねられている髪も、今日は下ろされていてそれもまたアイシアの可愛さを高めているかもしれない。
だが、可愛いだけではなかった。その手には、剣が握られていた。いつもの釘つき棍棒ではないから、多分儀式用のやつなんだろう。
総じて、今のアイシアは、それこそおとぎ話から飛び出してきたお姫様のように、現実感がなかった。
まあ、要するに。
「めっちゃ綺麗で、可愛い」
「素直でよろしい」
「喋ったらいつも通りの、俺のアイシアだ……よかった…………」
俺の婚約者は、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「喋らないと、あなた、私のことおとぎ話の住民とか考えるでしょ?」
「本気で俺の考え読んでくんの怖いんだけど」
俺は、いつも通りアイシアの頭に手を伸ばそうとして、さすがに不味いかと思い至る。
「いける?」
「ダメ。 こっちならいい」
示された通りに、耳に一度口づける。
「あと、ここくらいかしら」
手の甲。
指先。
一度ずつ、唇を落としていく。
「あなた、私のこと好きすぎない?」
「今更だろ」
「そういえばそうね」
顔を引き上げされられた。金の瞳が俺を覗き込む。
ドレスの少女は少し背伸びをして。
俺の耳に一度。
少し間が空いて。
手の甲に。
指先に。
口づけてくる。
「お前俺のこと好きすぎないか?」
「当たり前でしょ?」
◆
「ということで、このたび、私は家督相続争いに破れて領地に引きこもることになりました。 その理由としては、昔の男に傷物にされたからです。 では、本日はよろしくお願い致します」
「冒頭の挨拶ワケわからねえんだけど!?」
思わず叫ぶ俺。
パーティー会場というか、つまるところのユリアの家は、大きな広間があり(驚くことに普段はここで飯を食ったりしているらしい)、そこの階段から主催側の人間が降りていき登場する、という流れだった。
で、これは本来通りらしいのだが、主催者が一番最後に階段を降りて御挨拶という流れだそうだ。
ということで、当然のごとくユリアとギルマス(当然のごとく正装)が最後に登場して、そして一言目があれである。
だが、叫んだのは俺だけだった。なんなら、瞬時にアイシアから口を押さえられる。
ざわざわしてるのはしてるんだけど、驚いていたのは俺だけだった。
え、今のって貴族用語でなんか別の言葉だったりしたの?
アイシアも驚いてはいないし。
「あと、皆様おまちかねの竜卿とその婚約者です。 よろしくどうぞ」
雑くない?