王都編:Very Important Person Only
初めて王都を訪れた者は、門を潜るとまず真っ直ぐに大きな道が通っていることに驚く。この道は一直線に、貴族どもが住むエリアと王城へと続いている。
何でも、魔獣がこの街に侵入してきたときに、反撃をスムーズにするためと、見晴らしをあえてよくすることで、城やら邸宅やらを魔獣どもの的にするためだそうだ。
その昔、別の大陸からこちらに来た使節(?)とかいう連中は『人の侵略を想定していない。訳がわからん』とコメントを残したとは、アイシアから聞いた。その後、その連中ではないが侵略しようとした別大陸の奴らがいたらしいが、当然のごとく魔獣にぷちっとされたそうだ。
「でも、その時のうっかり侵略者さん達がきっかけで騎士団が結成されたのよ」
「へー」
今では、治安維持を頑張ってる騎士さん達も、元々は対人戦闘に特化した戦士として期待されていたらしい。今もそうだが。
いろんな背景があるもんだ。
「それで、それが、俺がこれから貴族街の方に連れていかれようとしてることとどう関係するんだよ」
アイシアというかグノル家は、一応武の貴族であるので、貴族街の方に住んでいても全く問題はないのだが、実際はどちらかというと外郭に限りなく近い場所に邸宅がある。仕事柄、魔獣を持ち込むことが非常に多く、ご近所迷惑ということで貴族街から排斥されたそうだ。気持ちはかなり分かる。うるさいし、臭いし、そして慣れればそうではないのだが、時折めっちゃこわい顔してる魔獣もいるし。
「真っ直ぐに行くっていうことの意味をあなたに教えるという目的は果たしたわ」
「よかったな、新たな目的ができて。 俺にこれから何が起きるか教えてくれ」
「頭が高い」
アイシアのつむじに、俺の額を当てて、ぐりぐりする。
「これ以上、下がりようないな」
アイシアが、俺の頭をつかんでそのまま彼女の肩に乗せる。
「下がったでしょ」
ついでに、わしゃわしゃと俺の髪をかき混ぜはじめる。
やめろ。
「ちっ」
ユリアは舌打ちして、動いてる荷台から飛び降りた。多分、ギルマスのところに行った。
「それでこれからなんだけど、当初の予定どおり婚約発表することになるわね」
「やっぱり、やるよな……」
「我慢しなさい、私はもう覚悟したから。 ところでなんだけど、貴族街の家の配置ってどうなってると思う?」
どうって、こう。
「横並び?」
「そういうことじゃない。 言い方が悪かった。 無論のこと、一番真ん中にあるのは王城なんだけど、そこに近い家はどういう家だと思う?」
そういう意味か。武の貴族の頂点は竜卿であるように、知の貴族の頂点は″王″だ。要するに、知で一番の権力者は″王″ということである。
その王が住まうのが、王城な訳で、その近くに住むのは普通に考えれば。
「偉い家」
「ぎりぎり合格点。 まあ要するに、今現在王に近しい貴族になるわけなの。 で、今は一番近くはユリアの家があるの」
「ずっと偉そうとは思っていたが」
「実際偉いのよ」
驚きはない。ないけど、その割にあいつフットワーク軽すぎないか。
「つまり、これからユリアの家に向かうことになって、そこでそのまま婚約発表の流れになるわ」
「なんでそっちでやんの?」
アイシアの実家ではなく。
「選別してくれるつもりみたいなの」
「選別?」
「要するに、客層を超偉い人しか来れないようにしたってこと」
…………アイシアの言い方的にはありがたいことなんだろうが、俺としては余計にややこしくなる気配しかしないんだが。
「もっとわかりやすく言うと、身の程知らずに私を二号、三号的な妾にしようとしてくる馬鹿共が入ってこれないようにしてくれたってわけ。 これで、あなたが無駄に決闘受ける必要もかなり減ると思う」
「ユリア様、まじぱねえっす。 尊敬っす!」