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その五

 実にのどかな光景だった。物々しい鎧や武器を携えている人間たちが、ヌマツチモドキを追い立てる。ヌマツチモドキは、のそのそぴょんぴょんと待機組が構えている網へと自ら入っていくのだ。

 

「いやー、順調だ」


 俺も、ひたすら無心で追い込みに徹していた。あっと、今日の紅一点の片手剣使いが転んでる。そのまま、毒づきながら匍匐前進でヌマツチモドキを追い込んでるわ。普通に立ちあがればいいと思うんだけど、何が彼女を駆り立ててるんだ。

 ほのぼのとした俺たち魔狩りだったが、網を構えているカイだけは、浮かない顔をしていた。休息がてら、声をかけてみることにした。


「何かあったのか?」

「ケイトか……。いや、順調そうだなと思って」

「あー、お前としてはなんか見つかった方がいいのか」

「そうでもないんだけどね。今回の調査だってもしかしたらっていう可能性レベルの話だったし」


 ありゃ、違ったのか。俺はてっきり、ヌマツチモドキひいてはモリアオタケに異変がないことにがっかりしていたのかと。


「というか、異変はあるよ」

「へ、どこに?」

「数が多すぎる」


 言われてみれば、ここ数年でも大漁ではある。けれど、俺としてはそんなに異変というほどではないように思えるのだが。


「もっと数が多いときあったぞ?」

「ああ、いや正確には、陸地にヌマツチモドキが多すぎるんだ。それに、追い立てられても沼に逃げ込まないだろう?」

「あー、それは確かに」


 いつもの焼き討ち部隊は、数度にわたって派遣される。一度の焼き討ちだけでは、取りこぼしが非常に多いからだ。なんせ、ヌマツチモドキは水の中でも生存できるので、奴らは沼に飛び込みやがる。そうなれば、俺たちは追いかけない。ここの沼に潜む他の魔獣を相手取るには、危険度や装備などの費用といったもろもろが割に合わない。


「ということで考えられるのは、()()沼に飛び込まないのか、あるいは」

「沼に異変がある、ってことか……」

「でも、それが今回の胞子症の直接の原因に繋がるかは、わからないんだけどね」


 そこは、今後の調査次第かなと、カイは首をゆるゆる振りながら言った。


 その後、カイに言われたことを少し注意しながらヌマツチモドキを追い込んでみたが、やっぱりこいつらは沼に逃げ込まず陸地でぴょんぴょんのしのし動くだけだった。


「俺たちにつかまるよりも、沼の中のナニかが、危険てことか?」


 もちろん、ヌマツチモドキが答えることはなかった。


「おーし、燃やすぞー」

「「「うえーい」」」

「今回で大量に捕獲で来たから、少なくとも今回の焼き討ちはもうおしまいだぞー」

「「「よっしゃああああああああ!」」」


 ボルテージが上がったところで、着火。燃えやすい性質の、モリアオタケは盛大な火柱を作り上げている。今回は特にヌマツチモドキの数が多かったので、天を焦がす勢いで燃え上がっている。

 俺たちは、特段その光景に歓声を上げるということもなく、各々が好き勝手に過ごしている。やがて、火の勢いは弱くなりついには消えてしまった。ヌマツチモドキを捕獲していた網も一緒に燃え上がったので、奴らは勝手に逃げ出していく。


「撤収するぞ」


 俺の号令の下に、焼き討ち部隊は立ち上がり各々が馬車が待っている場所に向かおうとした、その刹那のことだった。


「皆、しゃがめ!!」


 誰の声か、気にする間もなかった。俺たちは、必死に身を低くする。そのわずか上を、何やら巨大な物体がかすめていった。その威力は、俺のわずか後方の地面をごっそりと削り取っていることから、お察しだ。当たればひとたまりもない。


「な、なんだあれは!」


 一人震えた声で叫んだ。そいつが指さす方に目を向けると、そこにはとんでもない大きさのヌマツチモドキが存在する。


「gegegegegegeegegegegeg!!」


 高らかにそれは鳴いた。


「あー、よかったなカイ。いろんな疑問の答えが判明しそうだぞ」

「喜んでいいのかなぁ」


 軽口をかわしつつ、しっかりそれを見据える。どうやら焼き討ち部隊のお仕事は、まだ終わらないようだ。

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