王都編:痴話喧嘩のあとしまつ
「どうも」
「ああ、うん」
「はい」
一見すれば、不機嫌な顔の男がユリアと変わって、荷台に乗ってきた。ただ、ギルマスの場合、本当に機嫌が悪い時は満面の笑顔になるという厄介きわまりない性質を持っている。
「今日もいい天気ですね」
「そうですね」
「うん」
短髪メガネ美形野郎は空を見上げながらそんなことを言い始めた。
俺とアイシアは顔を見合わせる。
「どうしたのよこれ……?」
「そりゃお前あれだろ」
「え、やっぱりそう思う? ついに、ギルマスがオリジナルの詩歌作成に目覚めたって」
「違います、何を言ってるんだあんたらは」
おお、にこーっとした顔になった。これでこそである。
「気まずそうなギルマスを解してやろうとした、魔狩りからの配慮だよ」
「感謝しなさい」
ユリアとはサハイテ会館大凍結事件後に、こっちで少し会っていたからましだったんだろう。で、こっちは、やらかした後の初顔合わせだからなあ。そりゃ、普通に恥ずかしいし気まずい。
理由が理由だし。
「解し方が、人を苛つかせることしか無いのですか」
「解れたんだからいいじゃない」
「チッ」
態度悪いなこいつ。おちょくっただけなのに。
「それで、結局どうなったの?」
「何がですか」
「あんだけ大事というか、職員に迷惑かけた痴話喧嘩の顛末に決まってるでしょ」
「ああ、昨日正式に婚約しました」
「おお、めでたい」
今更感もそれなりにあるが。
平民たる俺はそれくらいにしか思わなかったのだが、どうやら貴族たるアイシアは違うらしい。怪訝そうにギルマスをまじまじ見つめる。
「スムーズすぎやしない?」
「アイシアさんも、御存知でしょう。 我々はかつて一度寝かしてますので周知は楽なんですよ。 ある種、既成事実があったわけですから」
「あら? 破棄じゃなかったの?」
「破棄と思っていたのですが、どうやらうちの兄とユリアの弟君がそのへんをごちゃごちゃにしておいてくれたようで」
「…………お互いに体よく押し付ける先と思われてたりする?」
「……ユリアはともかく、私はそこまでやらかして無いはずなのですが」
なんか色々あるんだろう。俺は貴族連中があーだこーだ言ってる横で、考えることを止めた。難しそうだから関わりたくない。
アイシアはそんな俺に気づいたようで、やや仰向けになるような姿勢で。
「分かりやすくいえば、この二人婚約関係継続という形になっていたようなの」
「ほへー」
つまり、知らないのはこいつらだけだった形なのか。まあ、婚約関係無くなってると言われても、普通に仲良しだったわけだが。
「貴族的には色々あるのだけれど、だめねこいつ理解するの諦めてるわ」
「取りあえずは、アイシアさん、ケイト君。 お二人には大変ご迷惑をおかけしました。 ので、私とユリア共々このご恩はしっかり時間をかけてでも返させて頂こうとおもいます」
ギルマスは深々と頭を下げる。
うん、苦しゅうない。だが、最初に謝るべきは。
「職員の方にも、ちゃんと謝っとけよ」
「勿論。 サハイテに帰り次第、誠心誠意をこめて一人一人に謝罪の言葉と粗品の方を進呈しますので」