王都編:ドキドキ婚約発表
よく晴れた夕方。俺とアイシアは、これから街外に放逐される罪人のような気持ちでがこがこと荷車に揺られていた。むしろこれから、街に帰るんだけど。
「そこまで嫌がることか?」
ギルマスが車を引いてくれているので、必然的にここに残ったユリアはそれなりに不思議そうに、そう問いかけてくる。
「嫌だ」
「だるい」
「いやこう、ケイトが嫌がるのは普通にわかるのだが、アイシア嬢は一応慣れてはいるだろう?」
生粋の知の貴族は、純粋たる武の貴族を不思議そうに見つめる。
果たしてアイシアは、その目から逃れるように体の角度を変えて、そのまま俺にもたれ掛かってくる。
「私がそっち関連から離れて何年たってると思ってるのよ」
「君が、サハイテに行ってからだから……五、六年ほどか?」
なぜ、二人して俺の顔を見てくるのか。いや、何を知りたいかはわかるけども。つっても、俺もあんまり覚えてはないのだが。
「もうちょい、長くいる気がする。 お前、サハイテに住むようになる前から、ちょくちょく来てたろ。 具体的にはイキリ散らかし時期」
あれ、確か竜卿に成りたての頃だった記憶がある。
「イキリ散らかしとか言うのやめなさい」
ごんごんと頭をぶつけてくる。痛くはないけど、喋りにくくなるから止めなさい。
「そんじゃあ、思春期で」
「大体、あなたもそれなりにやらかしてたでしょ!」
聞こえませーん。
耳を塞いだ俺に、不満をアピールすべくアイシアが先程よりも勢いをつけて、どこんどこん頭をぶつけてくる。普通に痛いので、手で頭を固定する。柔らかな髪に手が触れる。
「あー、うん、放っておくと君らはこうなることを分かっていて、隙を与えてしまった私が悪いな。 話を戻して構わないか?」
「どうぞどうぞ」
頭に添えていた俺の手が、アイシアの腹の前で組み直させられた。
「最近というか、ここ数年なんだけど、明らかに私、舐められてるのよ」
「え、誰が?」
「はあ?」
こいつ相手に舐めた態度とれんの?
竜種をおもちゃ扱いできる女を?
ユリアも意外だったようで、目を丸くしている。だが、それも一瞬のことですぐさま、何かしら納得をしたようで。
「ああ、そうか。 アイシア嬢をそういう場でしか知らない奴らか……」
「そう。 ちょっと私、健やかに可憐に育ち過ぎてしまって……」
「自分で言うなや」
「ということは、妾候補として?」
「そこはさすがに少なかったけど、まあ、第二・第三候補みたいな声のかけ方は近頃増えたわね」
ほーん。
なるほどね。
「ケイト、私はどこにもいかないからお腹の締め付け緩めてくれる?」
「やだ」
「仕方ない人ね……あ、こらどこ触ってるの、くすぐったいじゃない」
「クリス! 場所をかわってくれ! 話題が話題だから仕方ないとはいえしんどい!!!!! もうやだここ!!! こいつら自重しない!」