王都編:イワンガカウ その③
ウシは美味しいのだが、当然食えない部分もある。角は使い道があるから回収して、他は地面に埋めた。骨も矢の材料にならんことはないのだが。
「手間暇がなあ」
「そうなの?」
「強度が微妙なのと、それならもっと良い素材あるからな」
骨になっても種族魔法の特性が残る魔獣もいる。理屈は知らんが、そういう魔獣を素材にすれば、属性矢も作れる。一応、このウシも硬直が使えるが、硬いだけならもっと他にその強度も軽さも上の素材はいくらでもあるからな。
「結局、魔狩り的には肉が一番だな」
「魔狩り以外の人たちにとっても同じっていうの、割りと珍しいわよね」
「確かに」
無論、魔狩りは仕事だから、依頼があれば肉だってちゃんと持ち帰るし、依頼人の希望する素材とかを無断でパクったりはしない。勿論、そういう盗難というか不正する魔狩りがいないとは言わんが。
だが、その不正を行うことがない理由のひとつに、パクってもそこまで魔狩り的には美味しくないという部分もあるとは思う。現に、今さっき切り取ったウシの角がどういう風に使われるかは俺は知らないし。価値が分からなきゃパクりようもないのだ。換金するにも、そういうルートを知らなきゃ意味ないしな。
そして、逆もしかり。
「飛針類の討伐なんて、魔狩りからは大人気だもんな」
「あれ、依頼者は魔狩り達が取り合いしてるなんて思わないでしょうね」
その点、ウシは肉という一点で価値が一致している。
多分、パクる奴も多いのだろうと思う。
「そんで、荷車屋はいつ来るんだ?」
「そろそろだと思うけれど……」
王都の狩り場だと、こういった魔獣の運搬も商売人の領域となるのだ。サハイテだとそうはいかず、魔狩りや元魔狩りの会館職員が運搬することになる。危険度が全然違うのだ。
しばらく、ウシの残骸をちゃんと処理したり、骨に残ったウシ肉を狙って飛んできた鳥さん達と戯れていたら、がらがらとタイヤの音が聞こえてきた。
「来たか」
「これで、帰らないといけなくなるのね……」
「速攻でこっちの会館に飛び込んで次の塩漬け未達成依頼受けようぜ……」
王都に帰りたくねえ。俺と、アイシアの共通認識だ。
視線を中空あたりに固定して俺達は現実逃避をしていたら、荷車屋さんが目の前に止まった。
「じゃあ、このイワンガカウをよろしくお願いします」
「かしこまりました、アイシアさん、ケイトさん」
「逃避行は楽しかったか?」
「…………」
「………………」
俺らは走った。自由を求めて必死に走った。
そして、凍った。
くそが、ユリアの奴絶好調じゃねえかよ。
◆
俺とアイシアが、王都付近の狩り場に出現していた理由はたったひとつである。
「せっかく面倒な連中の……」
「応対を押し付けてたのに……」
「だから、追いかけて来たんですよ」
ちょっとしたトラブルの末、数日間ぐっすり眠ったギルマスは心なしか肌艶が良い。ついでに、ユリアの方も元気そうだ。
「眠れない夜を過ごしたみたいだな」
「昨晩は楽しかった?」
「ええ、もう、それはそれは一睡もできませんでしたよ」
「お前たちのお陰で、下っぱ貴族はともかく王に連なる面々の弱みすら握れてしまったからな」
二人ともお怒りである。
「あきらめて家に帰りますよ、竜卿様、婚約者殿」
「あの、帰るのは帰るから、せめて足を凍らせた上で紐で縛るのは止めて欲しいなって……」
「だまれ」
ひえ。