王都編:イワンガカウ その①
お久しぶりです。
魔獣の肉は意外と人気の食材だったりする。意外というのは、王都といつも俺ことケイトが過ごしている人類最辺境の地たるサハイテとでは、その価値が違うからだ。
「サハイテ基準にしたらダメに決まってるじゃない」
例のごとく、愛刀こと愛とげとげ棍棒を構えながらアイシア・ディ・グノルは、俺に呆れたような視線を向けてくる。
「しゃーねえだろ、俺基本森生まれ山育ちサハイテ在住なんだから」
「田舎っぺ」
「うるせえ」
王都生まれ、なんかよくんからんところ育ちの竜卿殿に比べたら、大概の奴は田舎者になるだろうよ。
『Bmooooooooooo!』
「よいしょー」
王都付近で魔獣が大量発生している、との一報が入ったのは今日の朝方だった。といっても、このくらいなら俺はもとより、竜卿という称号を持つ人類最強の存在であるアイシアがわざわざ出る必要がある事態では、全くもってなかった。
ギリギリと弓弦をおもいっきり引いて、そして一気に解き放つ。魔獣──こいつはイワンガカウと呼ばれるウシ型の魔獣だ。
果たして俺が放った矢は、糸を引くようにイワンガカウの首に突き刺さる。そして、数歩ふらふらとイワンガカウ、めんどくさいからこっからはウシで良いや、がそれでもこちらに進もうとしたがバタンと倒れた。
「まあ、ウシならこんなもんだな」
「ウシ?」
ちゃんと名前呼ぶのめんどくさいだろ。
俺とアイシアは、二人で隠れていた木から飛び降りて、先程狩ったウシに近づいていく。
「よっしゃ、硬くなってない」
「もう一体やったら、後は私がやるわ」
「え、なんで」
俺がやる方が、高く買い取ってもらえるだろ。このウシのセオリーは遠くからこっそり狙って一瞬で倒しきるというものだ。
そうしないと、こいつの種族魔法は硬直であり、すぐさま全身を硬めやがるので、肉が食えたもんじゃなくなってしまうのだ。
で、当然のごとくアイシアは近づいてぶん殴るという方法を、得意とする。
「この方法だったら、あなたはあと何匹このウシを殺れる?」
「矢が続くかぎりどんだけでも」
そして、俺の固有魔法は良い感じに尖った枝を好きなだけだせる。
あー、こいつの角、寄生虫に食われてやがる。これだと高い値段がつかないが、まあ仕方がない。こういうのは、時の運でもあるからだ。
俺と同様に、ウシを解体しているアイシアは、先程の俺の回答に対して、でっかいため息を吐いた。
「食肉ギルド運営してる貴族とか商人達からスカウトされたいなら止めないけど」
「なんでそうなるんだよ」
「あなたが思ってるよりはるかに、ちゃんと美味しい魔獣のお肉の利権は大きいの。 ああ、ちなみにだけど貴族用語でスカウトを断られるって書いて、暗殺対象って読むことも知っておいた方が良いわね」
そんな、アホな。たかが、ウシ肉だぞ。美味いのは認めるけど、牛肉とそんなに味変わらんだろ。サハイテなら食堂で普通に出てくるし。なんなら牛肉のステーキよりも安い値段で。
「だから、サハイテは基準にするなって言ってるじゃない。 念のために言っておくと、あなたがあと二匹、ウシをお肉が美味しい状態で狩ったりしたら」
アイシアが、ガンっとウシの脚を切り落とした。
「冗談無しに、王都の肉という肉が値崩れして何人かのギルド員は首を吊ることになるわよ」
「ええ……」
さすがに大袈裟だろ。俺の態度を見てか、アイシアはもはや憎しみすらこもった目で俺のことを睨み付けてきた。
…………まさか、ガチですか。