その十四
「動かないお姫様も追加されたんだけど、どうしようかしら……」
「王子様のキスしかねえだろ」
「その王子様は、今アイシア様のお宅でスヤッスヤッなのだねえ……」
参った。
ユリアは恥ずかしくなって…………というより、いたたまれなくなった感じか。とにかくこの場から逃げ出したかったようで、氷に閉じ籠ってしまった。
「割る?」
「バリンって、体ごといきそう」
「万が一そうなったら、大事なんてもんじゃなくなってしまうよ。 冗談なしに、貴族間の情勢が一気に変わってしまって、魔獣根絶とか言い出すよく分からん連中がのさばり出すねえ」
魔獣を根絶できるって、考えてる奴らがいるのか……。
「溶かせねえんですかい?」
「ダーリンのしゃべり方から漂うよう三下が感すごい」
「しゃーねだろ、敬語に慣れられてねえんだよ」
「そこ、全く関係ない方に逸れていかない!」
おお……珍しい…………アイシアが、進行役の方に回ってる…………。
「あなたもいらんこと考えてる暇があるなら、なんか案出しなさいよ」
「案、つーか、モルトの奴はだめなのか?」
溶かす、ってのは割りとアリだと思うんだが。
「ああ、知らないのね、見せる方が早いかしら」
アイシアが店員さんというか、部下から火をもらってそれをユリア(こおりのなかにいる)に近づける。
すると、その火が凍りついた。
「は?」
文字通り、凍ったのだ。赤色のまま、固形物にと姿を変えたのだ。
「シノア曰くなのだけど、固有魔法って結果だけを先に引き出すタイプもあるそうなのよ」
結果?
「例えば、水溜まりに氷が張っていました。 どういう理由が考えられますか? はい、早かったわねケイト」
手すら挙げてねえよ。
「寒かったから」
「えらいわね、良くできました」
頭を撫でられる。
「俺にそんなに触りたかったのか?」
「そうよ。 あなたも、撫でとく?」
頭を差し出されたので、撫でておく。
「なあ、アイリス。 なんでわざわざ、あいつらあんなことを急に……?」
「シノアさん曰く、『本能』らしいね」
シノアは何を振り撒いてくれてるんだ。
「そう、それであなたのいうとおり、普通は氷ができるのは、氷ができる温度になって、水が形をかえる。 でも、固有魔法は、そこの寒くなる過程をはぶけるの」
「…………ん? でも、さっき寒かったよな」
「だから逆なのよ、氷ができたから、寒くなったの。 その理屈も、シノアがおしえてくれたのだけれど」
「けれど?」
「ぜーんぜんなんも分からなかったわ!」
胸を張っていうな。
「とにかく、そういうわけで、氷を溶かすのは結構きつそうね」
なるほどね。
……………………………。
「じゃあ、どうすんだよ!」
「どうしようかしら?」
「取りあえず、クランチ家には連絡しておきますか」
「それはそれで、大事になりそうね……。 都合よく、王子様が迎えに来てくれたり…………っ!」
アイシアが言い切る前に、マッドを覗いた三人は天井を、正確にはその向こうにある空の方を、一斉に見上げる。
「ど、どうしたんだい、急に!?」
「魔獣だ」
そう、それは俺達の隣人とも言うべき存在の気配。
ただ、これは──。
店を一度大きく揺らした、巨大な鳥から降りてきた男(寝癖が跳ねている)が言った。
「それは、こちらで預かってもよろしいですか?」
「「「「どうぞどうぞ」」」」
ユリアを秒で、銀髪眼鏡美形男に手渡した。
よっしゃあ!
解決!




