その十二
おもちゃ。
基本的には子供が持って遊ぶもののことを指す。
なのでまあ、例えばアイシアが持っていても何も違和感はないんだが。
「しばいたわ」
「痛っっっっっ!」
ただ、それを持っているのがイイオトナというか、ギルマスの場合違和感しかない。
ということは、である。
「あの、ユリア様……念のためにお聞きしますが、そのおもちゃというのは」
「その、なんだ、なんといえばいいのだ、あの、こうだな、容器に入れられていた、粘液、のような」
「あー、はいはい」
おもちゃね、おもちゃ。もろもろ察した。
「あー、あなたが好きなやつね」
「好きじゃねえよ、最近は!」
「最近は?」
「あっ」
俺は死んだ。
アイシアさんお願いですから、じっとりした目でみないでください、許してくださいエチケット的な意味で。
あと、モルトも死んだ。
「それをだな、見つけてしまって、私もスルーすれば良いのに、つい、睡眠不足で、短気になっていて」
「見つけたってどこで?」
聞かないであげて!
それは、超大事なプライバシーなの!
「無論、あいつの執務室の、机の上だ」
ノータイムで、言わないであげて……。
心の中で、ギルマスのことを偲びながらも、妙なことに気づく。
「ちょっと待ってくれ、ユリア」
「机の上に、ですかい?」
即座に疑問を感じる、俺たち野郎ズ。
「ああ、机の上の書類に紛れて、ポイッという感じで」
「それはおかしい。 なあ、モルト」
「おう。 絶対そんなところに、おもちゃは置かねえ」
「………………そこの二人は、それぞれ後でじっくり話を聞かれる、というか、ケイトはもう確定で後で聞くけれど、その前にちょっと事実を確認しないといけないわね。 ユリア、もうちょい詳しく、あの痴話喧嘩当日の出来事を教えてくれないかしら」
「痴話喧嘩…………そうだな、恥を忍んで全てを話そう」
◇
私とクリスの出会いは幼少の頃に………………ああ、そこまで遡らなくていいな。
あの日は、先ほどから言っているように、いつも通りの睡眠不足だったのだが、え、なんでそもそも私がサハイテなんぞに居たのかって? 避暑だ避暑、もう暑い時期じゃない? …………避涼だ。
で、私があいつの部屋に行くと、想像通り書類の山に埋もれて寝てる、あのバカが居てたんだ。まともに休息もとれんのかこのバカは、とか、眉間のシワをほぐしておくかとか、相変わらず寝顔だけはかわいいなとか思いつつ、机に近づいたんだが。
なんだ、アイネス嬢、惚気は挟まなくていい? 惚気ではない単なる事実だ、そこの竜卿バカップルと同じにしないでくれ。
そこで、私が見ても問題の無さそうな書類のみを片付けておいてやるかと、まあ、ちょっとだけ思わなくもなかったので、書類の山を一山拝借したんだ。 うん? 絶対少しでも長く一緒に過ごすためだよな? ち、違うからな断じて。
そうしたら、コロン、と転がったんだ。容器が。まあ、私も、その、一緒に使ったことがあっ……なんでもない、一目で用途は分かった。
そうこうしている間に、あやつが目を覚ましたんだ。こうなったら、からかうのがマナーだと思ってからかったら。
ダウト!?
いやいやいや、アイシア嬢そんなわけ……そんな、私がちょっと、私がいるのにとかイラッとしたとか、そんなわけ……ははは…………そうだよ! ムカついたんだ!悪いか!?
で、でも、責めるつもりはそんなになかったのに、あいつがムキになって………………!!!
……申し訳ない、うっかり固有魔法が漏れでてしまった……………。