その十一
「で?」
かたくなに椅子を断っていたモルトだったが、結局マッドの隣に落ち着き、紆余曲折あって今はマッドに手を捕まれている。一般庶民魔狩りの顔色が青くなったり赤くなったりしているが、人類最強の貴族魔狩りはそれを普通に見なかったことにして、元凶に声をかけた。
「で、ってお前……」
もうちょい、言葉付け足しなさいよ。
「ちゃんとした作法に乗っ取ったら、少なくともあいさつの口上だけで、すごく長くなるけどその方がいい?」
よくないです。
「私としても、めんどくせえから勘弁してもらいたい。 こうなったら、全てを話すしかないのだが、時にアイシア嬢、アイネス嬢」
「なに?」
「どうされましたか?」
「今の店のなかはどうなっている?」
今ここの店は、満員なんだが、そういう意図でした質問ではないだろう。
「半分は、私の知り合いね」
「残り半分は、と言えればよかったのですが、四分の一くらいが、タキヤの者です」
「となると、全員一応我々の息がかかっている者達ということだね」
ぎょっとして思わず周囲を見渡す俺とモルト。
「そんなに、驚くことかしら? これくらいは、序の口よ」
「悪かったな、貴族の流儀に全然詳しくなくて!」
多分、盗み聞きとか警戒してのことだと思うんだが、そんなとっさに「あ、絶対ここに誰か紛れ込んでる」なんて発想までは行き着けねえよ。
「まだまだね」
「アイシア嬢、君はケイトを君の騎士にでもするつもりなのかい?」
「私の婿魔狩りにするつもりに決まってるじゃない」
「婿魔狩りってなんだよ」
初耳だよ、そんな区分。
「じゃあ、婿狩り」
「狩るな」
それはどっちかつうと、暴徒とかそういうやつだろ。
俺たちのやり取りに、生暖かい支線を向けながら、ユリアはペリペリと紙を破る。
便利アイテムこと、音生符だ。これは、貴族仕様で、周囲への音もれを防ぐことができる。
「大した念の入れ具合ね」
「ユリア様、これ、ひょっとして、私も席を外す方がよろしいでしょうか? 爵位的に聞かない方が良いこともあるかと」
そんなやばそうな話、関わりたくねえなあ。
「ぎゅー」
「逃げねえから、握るな。 手がみしみしいってるから」
あと、モルトがやけに静かだなと思ったら、本格的に瞳から光が失われている。諦めの境地の第一段階へと到達したようだ。
「いや、安心したまえ。 一応、というか、これから話すことは、他言無用で頼みたいから、本当に、本当に念には念を入れただけだ」
「なら、問題ないのね? じゃあ、聞くわ。 何があったの?」
「ああ……そのだな、まあ、私もあいつも、あの日は……睡眠不足……つまるところ、徹夜あけでだな」
えらく、しどろもどろだな。
「あいつがもっていたおもちゃに、噛みついてしまった」
はい?