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その十

捕獲された女貴族は、神妙な面持ちでお茶をすすっていた。マッドも身綺麗になって、その向かいで何かをつまんでいる。

一方で、その背後には腹を押さえたモルトが立っている。精神弱すぎねえか。


「なんでまた、こんなところでお茶しているのよ」

「やあ、アイシア嬢」

「アイシア様」


どうやら、流石にユリアは落ち着いたらしく、アイシアの問いかけに、まともに返していた。

アイシアは、ズルズルと隣のテーブルから椅子を引っ張ってきて俺の方を見る。座れということだろう。


「こんなところ、という言い方はどうかとは思うが」

「私のダーリンが、貴族御用達の方の店には、入れないと言い張りまして」


顔を見れば、青い顔でふるふると首を横にふる。


「なんだよ」

「俺は……貴族同士の話には入れないと言っただけで…………別の場所を移動してくれとは言ってない………………」

「つまり、この女達に気を遣われたことが、恐れ多いと」


全力で首を縦にふるモルト。

気持ちは分かる。そもそもアイシアが、こんなところ、と言ったのはここが、完全に街中にある庶民の味方的な食事処であり、確実に貴族が使うような店ではないからだ。

で、俺達のような高貴さとは無縁の育ちをしてきた者が、貴族と同席することはめっちゃ緊張する。つーか、怖い普通に。

それで、「同席できないです!」と至極全うなことを言ったのにも関わらず、貴族どもには「あ、貴族御用達店舗に緊張してるんだな」と受け取られちゃったと。そして、会談場所すら移動させてしまって、許してくださいモードになったのだろう。


「マッド、こいつお前の婚約者だよな?」

「うむ」

「日頃、こんなんじゃねえよな」

「こっちで過ごす格好に着替えたら、私が貴族ということの実感がようやく湧いてきてしまったようでねえ。 あと、私のドレス姿が美しすぎたようで、近づけないそうだ。 私のダーリンのこういうところは可愛いのだが、少々困るねえ、今後のことも考えると」


荒療治とかも、考えてそうだな。貴族どもがやることには、基本的に何らかの意味がある。

しゃあねえな、俺から一つ心構えを教えてやるか。


「モルト」

「お、おう」

「大事なのは──あきらめて慣れることだ」


もうどうしようもないのだ、貴族と付き合うことになったら、こんな感じになることは。今のうちになれておかないと、そのうち「王」とかがやってきたりするぞ。俺なんて、さっき騎士団長二人に襲われたからな、この女のせいで。


「余計に、そこの彼の目が死んだのだが」

「前途多難だな、マッド」

「…………何割かは、ケイト君の壮絶体験のせいだと思うけどねえ」

「壮絶?」

「アイシア様ユリア様、普通の貴族は騎士団長二人に襲撃されることありませんからね、首をかしげないでください。 ほら、ダーリン泣いちゃったじゃないですか!」


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