その九
つーことで、やってきましたアイシアの実家。前回は、よくわからん賊に襲撃されたり、今回の王都行の元凶の女貴族が窓からやってきたりと、散々だったが果たして。
そういえば、実家といえば。
「ギルマスは、実家に放り込まなくていいのか?」
因みに、ついさっきアイシアの家の使用人達がギルマスを回収していった。多分今ごろは、ベッドに転がされているだろう。どんだけ眠るんだよ。
「連絡はいれたけど、『そんな奴は、うちには存在しない』で、突き返されたそうよ」
へー。
「なに? 勘当されてるとか?」
「ギルマスは、三男なんだけど、今の当主にあたる長男が、ユリアのことが好きだったらしくて」
「どろどろしてんね」
横恋慕、ってやつか?
「そこは、でも、まあ、さすがに、普通に問題なく解決したんだけど」
「うん」
「その当主の奥様っていう方が、物凄く嫉妬深くて」
「うん?」
話の流れが変わってきたな。
「ギルマスが家にいると、ユリアがやってくる、とかいうよくわからない被害妄想でギルマスの出入りを禁止しちゃったそうなのよね」
「ええ……」
「でも、今の惨状からして分かる通り、ギルマスって仕事大好き人間でしょ? 」
実家への出入りを禁止しても、全くのノーダメージだったそうだ。
「それが、数年前のことね」
「それが、今も続いてる、と?」
「違う違う。 当主としては、とっくに終わった初恋なんかで奥様に嫉妬されたことに腹を立てたそうなのよね。 あと普通にユリアの家との繋がりを断たれたことになるじゃない?」
一個人としては前者にキレて、貴族的には後者にキレたと。
「だから、すぐにギルマスの出禁は解除して、奥様にはじっくりお話をしたそうなのよ」
「じゃあ、なんで、存在しないことにされてるんだ?」
一応の解決は、してるはずだろう。
「『痴話喧嘩で、重要施設を一個機能不全に陥れて、その解決に竜卿が絡んでいます』 これを、貴族用語で不祥事って呼ぶのよね」
「わーお」
「そして、不祥事が大好きな貴族が、それなりに重要なポストについてるお家の足を引っ張れるとしたら、嬉々としてクレーム入れると思わない?」
そうなるか。そりゃそうなるわな。
「ということで、本職は武の方でできるだけやりたくなくても、強制的に駆け引きせざるを得ない状態になっている、ってのが現状よね。 しかも、原因は実の弟。 あなたなら、そんな弟がいたらどうする?」
「少なくとも、顔は合わせたくねえな……」
ぶん殴るくらいはするかもしれない。
「そういうことよ」
なるほど、よくわかった。
ところで、
「お前、ギルマスの家の事情に詳しすぎないか?」
「これくらい、貴族の噂話レベルですわよ?」
貴族怖い。
「さて説明は済んだところで、そろそろ往生際の悪い女貴族に止めを差しに行きましょうか」
「へい」
いつ、マッドとやり取りをしていたのか知らないが、所在地が判明したそうだ。
貴族怖い(二回目)。