その三
話が進まなかった……
所で、魔狩りとして生きるということは、命のやり取りを日常的にするということだ。その生き方を選んだことに関してどうこう言うやつは、俺の知る限りいないのだが、どうしても仲間の死に目に立ち会うことや、魔獣との本気で命を奪い合うことから、いわゆる街中での日ごろの生活のギャップに心が疲弊してしまうことは少なくない。シノアたち研究畑の人間、とりわけ医術の専門家は、このことを心理的負荷と呼んでいるらしい。ということで、俺たち魔狩りはそのストレスに付き合っていくのも仕事の一つだ。
そのストレスへの対処法は、人それぞれであるが例えば俺の場合は、一仕事終えてからしっかり飯を食うことであり、アイシアの場合は報酬で好き勝手に物を買ったりすることである。なんにせよ、一仕事終えたという切り替えをはっきりさせるっていうことだ。で、逆に言えば今から仕事をするって時だけはっきりと区別をつける奴もいて、それは今俺の隣に座っている奴に当てはまる。
「いやー、いやだね焼き討ち任務、もちろん同行を申し出たのは僕たちの方なんだけどね、それでもやっぱりさ、これから沼地でひたすらヌマツチモドキを追いかけまわすと思うとねどうしても気が滅入るよね。ケイトもそう思うだろう?それにしても、今日はいい天気だな、なんでこんな日に沼地になんて、おっとごめんさっきといってることがかぶっちゃったや、でも本当にそう思わないかい。所で、ケイトとアイシア様はそろそろチュー位したのかな、あ、ごめんこんなことを聞くのは野暮だったね、僕の悪い癖、てへぺろ」
「毎回のことだが、お前キャラ変わりすぎだろう……」
おしゃべりくそ大男は、執務室ではついに一言も発さなかったカイその人である。うるせーから、そろそろ馬車から落としてやろうか。あと、ごっつい剣を手に持ってるやつがてへぺろとか言ったせいで、鳥肌が立ってきた。
「ごめんごめん、僕もそう思うんだけど、しみついちゃってるからねぇ。そろそろ、落ち着くけれど」
そういうと、本当に先ほどまでのうざいテンションが薄れてきた。
「ふう、テンションの調整が難しくてね」
「いやまあ、別に俺は構わないんだが」
俺は、他の同乗者を見渡した。今回の焼き討ちに参加する連中で、俺とカイを合わせて10人だ。元からカイのことを知っていて苦笑している奴が三分の一くらいで、なんだこいつという目を向けているのが残りの全員だ。
「お前、もう一回自己紹介しとけば?」
「あー、その方がいいかもね。というわけで、改めまして自己紹介を!僕の名前は、カイ残念ながら今は家名はないよ、所属は一応研究所付きだけど本職は魔狩りだからみんなの仲間だよ。あと、恋人は残念ながら募集してないから、そこんところよろしく☆」
俺は、一発頭を殴った。余計なことまで、言いすぎだ。
「ひどいじゃないか、すぐに手が出る男はモテないよ?」
「いろんな意味でお前うるさい」
俺とカイのやり取りをみて、警戒していた数人からも笑い声が上がった。一応狙い通りだ。
そんなこんなで、俺たちを乗せた馬車は、おおむね和気あいあいとした雰囲気で沼地へと向かうのだった。