顛末
魔獣関連ギルド連合会中央管理会館、通称会館の職員達は大忙しであった。屋根の破損、それに伴う貴族連のお気持ち表明お手紙への対応、修繕の指示、野次馬の整理などなど。当然、会館職員のトップであるギルマスは、多忙なんて言葉では生ぬるいと言わざるを得ない状況だった。
「ギルマス!王に連なる面々からのお手紙どうすれば良いですか」
「燃やしてくださ……あ、いやユリアに投げておいてください相手の弱味を握ってるとおもうので脅迫して貰います」
「ちょっとあんた、ご飯食べなさいよ!」
「後にします」
「ギルマス!栄養ドリンク持ってきました」
「そこにふたを開けて置いておいてください」
「ギルマス!」
「ギルマスはどこに!?」
まじで、忙しかった。猫の手というか、たまたま王都から来襲していた元婚約者が毒にも薬にもならない嫌がらせお気持ち表明貴族風味の処理を買って出てくれなければ、今頃ギルマスの胃は穴が五つほど出来ていただろう。
「借りを作る方が怖すぎるのですが……」
「ん、なんだ?返してくれるつもりがあったのか」
「げ」
全くもって接近していたことに、気づかなかった。
「貸しはおいおい返して貰うとして、クリスお前アイシア嬢からの報告に目を通したか?」
「いえ……いつ来たのですか?」
「ちょうど今だ」
なら、目を通す暇があるわけない。
「それで簡単に要約すると、天井穴あけの罪獣を捕まえたらしいんだが」
「それは……非常に!非常にありがたい!」
多少はこれで楽になれる。
「まあ、聞け。その魔獣がこれだ」
ユリアがギルマスの足元を指差した。
「…………」
「因みに、私が逃がした訳じゃない」
つまり、元からここに侵入していたと。
冷気が突如として、ギルマスの足下から立ち上ってきた。ユリアが固有魔法を発動したのだろう。
「総員!魔獣駆除かかれ!」
「あと、固体であれば全て溶かし尽くすそうなので、私はこいつらの動きを止めるので精一杯だ。さらになんと、衝撃を加えたら分裂して増えるそうだ」
「魔獣駆除中止!」
連続して大声を出したので息切れがやばい。
ユリアはユリアで、固有魔法の連続使用で顔が青白くなってきている。
「どうすれば」
「さあな。彼らがさっさと対処法を見つけてくれるのを信じて待つしかないだろう。あと、めまいがしてきた」
特製栄養ドリンクを差し出すと、ユリアはそれを一口飲む。血色もよくなった。
「…………効果が高すぎやしないか?」
「合法です」
「そうか……」
「ギルマス!!」
「今度は何ですか?」
「アイシア様の自宅が燃えています!」
報告を聞くや否や、ギルマスはユリアの栄養ドリンクの容器を奪って、残りを飲みほした。
そして、
「もう!!!!!勘弁してくれ!!!!!」
本日、最大の声量だった。
◆
メラメラとよく燃えている。
アイシアの自宅は超可燃性だったようだ。本人の資質が反映されたんだろう。げしげしないでアイシアさん冗談だから。
シノアの推測通り、ついさっきからからになった魔獣の残骸が発見された。アイシア宅は無駄にはならなかったのだ。
「できることなら、前もって教えていただきたかったですねえ」
アイシア宅が火事になっているという通報があったらしく、まじで洒落にならない忙しさの合間をぬって駆けつけたギルマスは、額に青筋が浮かび上がらせている。そろそろ、血管切れるんじゃねえかなあ。
「申し訳ありません、ギルドマスター様。何しろ、急を要することでしたので……」
シノアがギルマスに頭を下げる。こいつ、さっきまで高笑いしながらアイシア宅に燃料ぶちまけていたんだよな……。研究所の闇を垣間見てしまったのかもしれない。
「ああ、いえ。迅速な判断ありがとうございました。お陰さまでこちらも、会館をこれ以上氷漬けにする必要がなくなりましたので」
「ああ、だからユリアがこっちに来ていないのね」
へー、ユリアって氷の固有魔法使うんだ。なんで、知の貴族なんてやってんの?
「それで、アイシアさん、ケイト君」
「あん?」
「何かしら」
「ご成婚おめでとうございます」
「「なんでそうなった」」
中途半端に思われるかもしれませんが、取りあえずおしまいです




