その十五
結果から言えば、魔獣はいた。そして、喜ばしいことに竜種ではない。ただ、竜種ではなかっただけで、下手な竜種に遭遇するよりも俺達は危険に曝されていた。
その魔獣はテラテラとぬめっていて、手や足に類する器官を持っていないために、這うようにして移動する。その体は、俺の拳一つ分くらいの大きさで、少し黄ばんでいる白色をしている。
そんな奴らが。
それはもうヌメヌメうじゃうじゃぼとぼと、と。
「「ぎゃあああああーーー!!!」」
俺達は叫んだ。
何というか無理だ。理屈じゃなくて生理的に無理。
「アイシアお前掃除サボっただろ!」
「ちゃんと依頼に行く前に掃除していったわよ!」
コケシタという魔獣にそっくりではあるが明らかに凶暴化しているそれらは、ゆっくりしか動けないのがまだ救いだろうか。
「こいつらこんなにでかかったっけ!?」
「マモノ化の影響でしょ多分だけど!」
俺の足に纏わりつこうとしてきやがったので、たまらず振り払おうとして。
うーわ(悲鳴)。
「悪い報告と良い報告どっちが聞きたい?」
「良い報告以外、私の耳には入らないの」
無視して悪い方から報告することにした。
「まず一個目、こいつら分裂して増殖するぞ」
さっき足を振り上げたときに、体がバラバラになった奴が、ウゾウゾと蠢いてやがる。
きもちわるい。
俺の観察結果を受けて、アイシアは愛剣を振り下ろすことを止める。
「うそでしょ!?爆破できないじゃない!これで良い報告が嘘だったら、分かってるわよね!?」
「安心しろ、ちゃんと良い報告だ」
当初の目的は、果たせるわけだからな。
「こいつの体液、物を溶かせるぞ」
靴に穴を空けられた。裸足だったらやばかったな。
「わーい、犯人を突き止めたー」
「いえーい」
「って、なるわけないでしょ!」
アイシアは俺を担いで、彼女の両足で固有魔法を使う。もはや天井と屋根の役割を果たしていない大穴が空いた所から空へと逃避する。
アイシアの空の飛びかたは、どっちかというと爆風を生んでそれに乗じた大ジャンプなので、空中に留まるということはできないので手近な地面へと降り立った。
そして、俺達とは逆にシノア達が元屋根から、食料庫へと突っ込んでいく姿が見える。考えがあるんだろう、おそらく。
「つってもこれ、時間の問題だよなあ」
食糧庫がそんなに長い時間、あのマモノ版コケシタ(仮)を留めてられるとは思わん。
「どうにかしなきゃ、ここ滅びちゃうわねえ」
実にあっさりとアイシアはいうが、普通に洒落になっていなかった。