その十三
俺達魔狩りは、魔獣と対峙する時は事前に可能な限りの準備をする。全くのアドリブで何とかしなきゃならん状況もわりとあるが、大抵は装備でリスクを低減しようと試みる。例えば、火が苦手な魔獣と事前に分かっていれば、火を起こすための道具を持ち込んだりするのだ。逆に、火の息を吐いてくる魔獣を相手取る時は火傷薬を大量に持っていく。
まあ、ある意味で当たり前のことだ。基本的に、奴らに比べると俺達人間は非力なんだから。
だからこそ、未知ということは、それだけで大きな危険が伴う。なんせ、どんな存在で何をやらかして来るかが全く分かないわけだからな。
ただ、この危険は、実際に遭遇しなきゃ背負うことはない。つーか、背負うことすらできない。
要するにだ。
「暫定竜種を捕まえるのは別に良いんだけど、どこを探せば良いんだ?」
「ここら辺ですね」
「長引くわねこれは……」
どこにいるの、屋根穴あけ竜野郎は。
そして、悪いことにだ。人を集めて、場当たり的に探すということも、今回に限っては割りと難しい。どこに、ギルマス達と敵対派閥の手の者が紛れているか分からないからだ。マジで状況を更にめんどうにしやがるな。
「これだから貴族は……」
「「風評被害は止めて」」
「お嬢とアイシア様は一旦胸に手を当てて考えてみる方が良いと思いますよ?」
俺達の胸に手を当てて考える、なんてベタなことはしなくて良いからなそこの貴族令嬢ども。
何はともあれ、俺達は一旦解散することになった。俺とアイシアに関しては、朝飯を食いにいッた時の格好のままだからな。魔獣に、特に竜種になんて、遭遇して良い装備じゃない。あと、なんやかんやで今日まだ飯食えてねえし。
「んで、お前は何で俺んちについてきてんの?」
「どうか、食糧をお恵みください、ケイト様」
誤解が生まれそうな発言止めろ。
そういや、こいつ食糧庫の天井に屋根が空いてたって言ってたな。
…………うん?
「なあ……アイシアさんや」
アイシアは少し小首を傾げていたが、やがて答えに至ったようだ。
「…………あ」
そうだよね。タイミング的にも被害的にも、偶然と片付けるのには無理がありすぎる。
取りあえず、研究所の面々をアイシアの家に呼び寄せる必要があるな。
騒ぎまくっている腹の虫は、カピカピになっている麺の生地の残りを適当に焼いたやつで誤魔化さざるを得なかった。
こうなったら、せめてアイシアの家から決定的な証拠、あわよくば魔獣の捕獲ができることを祈るしかないな。