その十二
「これを見て貰うのが早いですね」
シノアが指し示したのは、屋根の破片の中でも一番大きなものだった。
さっき塗り込んでいた薬品のせいか、全体的に黄緑色に変色している。
「特にこの辺ですね」
「んー?」
普通に屋根の欠片だな、としか思わないが。
「お嬢、光を当てましょうか?」
「そうですね、その方が良さそうですね」
カイが、その大きな破片の下半分辺りを足で踏んづけて断面を上に向け、光生符を破る。一瞬だけ光が生まれて、その断面が、
「あ!」
「光った、わね」
キラリと輝いた。
「はい、それがおそらく、魔獣の痕跡だと思われます」
「痕跡?」
「体液の類いではないかと」
改めて他の破片も見てみれば、透明な何かが付着している。
「それがついているのが、屋根に空いた穴に対して内側にあたる部分ですね」
「なるほど」
「良く気づいたわね」
本当にな。
「これくらいは、研究所に所属しているなら、誰でも気づけます。それでは、お二人に問題です。他に何か気づいたことはありませんか?」
研究所の女は、楽しげに質問を投げてくる。
えー、気づいたこと……。
「はい!」
「はい、アイシアさん早かった」
「シノアの爪が伸びている」
俺は頭を軽く叩く。
「あうっ」
「要らんボケ入れるな。あと、変な声出すな」
痛くねえだろ。
「アイシアさんは、全く気付けていないようですが、相方のケイトさんはどうですか?」
「誰が相方だ」
「ヒントは、そうですねえ。さっきの断面の表面の形ですね」
カイがもう一度破片の断面を上に向けてくれる。いつもすまんね。
俺はしゃがみこんで破片に顔を近づけ、貰ったヒントのことを思いながら形に注目する。トスンと俺の肩にアイシアが顔をのせて、同じように覗き込んできた。
テカテカと光っているのは、体液らしいがそれがシノアの見てほしい所ではないだろう。
えーと、形かたち…………。
「やけに」
「滑らかね」
「正解です。恐らくですが、謎の魔獣は穴を空けるときに硬いもので砕いたりしたのではなく、溶かしたのではないでしょう」
証拠はまだありませんが、とシノアは肩を竦める。
「じゃあ、僕からも質問するね」
「お前もかよ。研究所の連中は、問題形式にすんのが好きなのか?」
「うん」
「その通りなのね……」
「こんなことができる魔獣は、いったい何でしょう?」
軽い口調だが、カイの表情は真剣そのものだ。背中の重みがなくなる。金瞳の女は真面目にならざるを得なくなったのを、感じ取ったのだろう。
「俺は、知らねえな。アイシアは?」
「記憶にないわね。特にこんだけ人間が暮らしている場所に侵入できる魔獣で、物を溶かせるやつなんて」
未知。
正体不明。
カイの質問への答えはひとつ。俺達は、そういった存在をこう名付けた。
「「竜種」」
「あくまで、暫定ですが。貴族のいざこざ程度の問題と思っていたのですが、存外に大事になりそうですね」
全くだ。ギルマスに追加報酬請求するぞ。