その十
百話目に到達しました。
ここまでこられたのも、日々読んでくださる皆様のお陰です。
いつもありがとうございます!
「おや、ケイト君アイシアさん、お帰りなさい」
会館の扉を越えると、ギルマスが居た。
「起きたのか」
「お陰さまで」
皮肉を籠めて返されたが、それに関しては、俺悪くねえからな。文句はユリアに言ってくれ。
そのユリアは、今もまだ貴族への嫌がらせに精を出しているらしい。
「そろそろあっちも休ませてやれよ」
「あれ曰く、最高のストレス発散であり休暇みたいなもの、らしいのでもう好きにさせてます。あと、そろそろ飲み物に仕込んだ栄養剤が効いてくる頃なので、ぼちぼち様子を見に行きますが」
ストレスの発散方法が歪んでるんだよなあ。そして、栄養剤の下りは聞かなかったことにした。うん、まあ、多分ギルマスもさっきの所業の仕返しがしたいんだろ。うん。
だめだ俺は俺を誤魔化しきれねえ。薬盛るなよ。
めんどくさくなりそうなので、俺は話題を本題の方に軌道修正することにした。
「まだ研究所の凸凹コンビ到着してねえの?」
「ああ、なるほど。あの二人に協力をお願いしたのですね。道理で、先ほどから屋根の穴から空を飛んでいる何かが見えるわけですね」
俺も、オープンな天井を見上げる。言われてみれば何かが飛んでいる。カイの槍にシノアも乗っているのだろう。
あの二人はお空を飛んでこっちに来ることにしたのね。まあ、確かに空は間者どももノーマークだわ。
「それで、ケイト君」
「あん?」
「アイシアさんが、一言も発されていないんですが、何をしたのですか?」
「俺の天才的閃きで、場を切り抜けたことが気にくわないんだろ」
「切り抜けられてないわよ!あと、そろそろ私を下ろしなさい、ギルマスも当たり前みたいに会話始めないでよ!」
ご要望通り、お姫様抱っこを解除してやると、ゲシゲシと俺の右足の甲を踏んづけてきた。
痛いからやめてほしい。
ギルマスは、今回協力することになった研究所の二人に挨拶──実際はまたもや貴族っぽい茶番をしていたのだが、茶番すぎて面白くなかったので割愛する──と、屋根の破片とかは好きに使って良いという許可を俺たちに与えて、この場を去っていった。
でっかい穴からそのまま会館に不法侵入してきたシノアとカイは、本人達曰く単に空を飛んでたわけではないらしい。
「魔獣の、気持ちになってみようかと思いまして。それで、ひとつ分かったことは、ここの屋根に穴を開けるのは非常に難しいということですね」
「え?」
「アイシア様と、ケイトなら分かると思うんだけど、ここって基本的にずっと誰かがいるわけでしょ?」
カイが、シノアから説明を引き取ったようだ。
「あー、そうだな」
夜行性の魔獣は普通にいるわけで、それに類する依頼を引き受ける魔狩りも当然いる。
なので、会館も営業しないわけにはいかないのため、会館は基本的にずっと開いている。
「だったら、普通に屋根に穴を空けようとする魔獣がいたら、音でもなんでも、その存在に気づけるでしょ」
「あっ!」
そりゃそうだ。魔狩り達は馬鹿ではない。少なくとも、屋根が全部なくなるレベルで削り取られたりしていたら、その魔獣を撃退しようとするはずだ。
「だったら、あなた達は、今回は魔獣のせいではないと結論付けたということかしら」
「いえいえ、違いますよアイシアさん。ただ、音が出る方法でしか穴を空けられない魔獣の類いは、犯人から除外できるようになったというだけです。それでは、本命の破片達を見せて貰いましょうか」
研究所の女は、目を爛々と輝かせていた。