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針集め編その一

この世界において、人という種族は万物の霊長足りえなかった。それは、単純により強力な生物、魔獣が存在するからだ。人という種族は、知恵を働かせ力を集結し、強大な魔獣と共存し、時には闘うことで発展を遂げてきた。そして、魔獣に関する専門家たちはいつしか魔狩り(まがり)と呼ばれるようになった。

 これは、魔獣関連なら全部任せてもいいんじゃね?と人々からあらゆる仕事を任されるようになってしまった、悲しき職業従事者たちの物語だ。


 あたたかな陽射しが、草原に降り注いでいる。一人の女が、ぽつんとたたずんでいた。その女の豊かな金の髪が、陽光を反射してキラキラと輝いている。絵を生業とするものがこの光景を見れば、彼女をモデルとした作品を描きたがることは間違いない。だが、惜しむらくは、彼女が身にまとうものは淑女のドレスではなく、戦うことを目的とした皮鎧であるということか。

 彼女の名前はアイシア・ディ・グノル、魔狩りである。現在は、消耗品の材料集めの真っ最中だ。

 

 魔獣とは、前提として生き物だ。その為、暖かくなれば活動的になるし、寒ければ一部の種類を除いて、冬眠もしたりする。そして、長らく眠っていると空腹も覚えるらしく、あたたかくなり始めたころが最も畑への襲撃頻度も多くなるのだ。よって、その魔獣にかかわる魔狩りの繁忙期も、あたたかくなり始めたころだ。

 有能な魔狩りたるアイシアは、とてつもなく忙しく連日の睡眠時間を削っているありさまだった。その為、今めっちゃくちゃ眠い。


「もう、今日はさぼってしまっても、いいわよね?」


 誰に問いかけるでもなく、呟いた。強いて言えば、あたりを飛び交う蝶に話しかけた。ここが、魔獣が出没するエリアであるとは、信じられないくらいの穏やかさだった。

 幸い、今日の自分は誰かからの依頼を受けているわけではない。困るのは、消耗品が足りなくなってそれなりの額で購入しなければならなくなる、明日以降の自分だけだ。


「こんな天気のいい日に、休息を取らない方が、間違っているのよ」


 アイシアの現実逃避気味の戯言を、優しく肯定するような心地よいそよ風がふわりと吹いた。


「よし、おやすむ!今日は、おしまい!」


 無駄に大きな声を出して決意表明してから、快適に眠るために、腰に携えていた武器を外す。アイシアは、大きなあくびをひとつした。

 さあ、今から寝る。誰に何と言われようとも、もう寝る。背中から地面に、ダイブしようと体を傾けて、


「頼む、そこを踏まないでくれ!」


とっさの判断で、倒れこもうとした位置に両の手をつく。当然背中から寝転がろうとしたので、ブリッジをすることになった。手をついてしまったことは、許してほしい。


「悪い、助かった」


 男はそういって、ブリッジの態勢になっているアイシアの腰の下に手を通した。どうやら、足元に生えている野草を採取したいらしい。


「もう、いいぞ」


 アイシアは、腹筋を駆使して上体を起こした。文句の一つは、言ってやりたい。睡眠を妨げた不埒物の顔をみた。そして、不届き者の正体が判明したアイシアは、そいつを思いっきり睨めつける。

 

「あなた、こんなところで何してんのよ……」

「見ればわかるだろうが。黄金草の採取に決まってるだろう」


 まったく悪びれた様子のない採取男は、同僚だった。アイシアは睡眠不足もあって、その男の態度になんとなくむかついたので、尻を一発蹴りあげた。

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