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02

 椋大は友達と遭遇し会話を始めてしまった。

 すぐ終わるかと思いきや盛り上がり始めてしまったため、作戦が無意味なものとなる。


「ごめんね、椋大がさ……」

「うん? 私は別に大丈夫だよ。でも、どうしようか?」


 どうしようかは僕が1番聞きたいことである。

 だって僕達ふたりで回ろうか、そんなことを言ったら冷たい目で見られて終わりだろう。


「湊、美希」

「あ、話は終わったの?」


 救世主が戻ってきた。

 というか、これは彼がいなければ意味がないんだから離脱はやめていただきたい。


「悪い、あいつらと移動することになった」

「え? こっちはどうするの?」

「ある程度は見て回ったからな、続行か帰るかしてくれればそれでいい」


 なんて無責任な……こんなの解散に決まっているでしょうが。

 彼はこちらに文句など言わせず、「今日は楽しかったぜ」と残し歩いて行ってしまった。


「安藤くんはどうする?」

「僕は豊崎さんに合わせるよ」

「ちゃんと言って、続けるか解散か」

「じゃあ……」


 こっちしか選べない。

 何度も言うが彼がいなければこのお出かけは意味がないから。

「ふーん、そんなに帰りたかったの?」なんて冷たい表情を浮かべつつ言われてしまったが。


「なんかさー、安藤くんって私に遠慮してるよね」

「え? 別にしてないけど」


 遠慮しているとか初めて言われた。

 逆に遠慮しろとはこれまで沢山言われてきたというのに。


「椋大くんがいなくなった瞬間にこの選択だからね、それとも椋大くんがいなければ私といるのは嫌だとか? もしそうだとしたら傷つくなー」

「違うよ」

「だったらまだ続けてほしかったなー」


 文句なら全て椋大に言ってほしい。

 どうして中途半端なところで他を優先してしまうのか。

 ああいう期待してしまうようなことを言ってないならともかくとして、それを口にしてしまった後の選択としては最高に駄目だと思う。


「送るよ、家ってどこ?」

「教えなーい。あとここでいいから、それじゃあね」

「あ、うん、じゃあね」


 ……せっかくお小遣いだって前借りしたのにこの結果って。

 別にデートをしていたというわけではないのに失敗したみたいな気分になった。

 いやまあ……デートなんてしたことがないから憶測にすぎないけれども。


「帰るか」


 いつまでも未練たらたらで突っ立っていても意味がない。

 でも、ふたりきりで行かせるべきだったのかもしれないなあ、そうずっと考える羽目になった。




「よう、一昨日は悪かったな」


 月曜日。

 依然として外を見て過ごしていたら椋大がやって来て謝ってきた。


「あの後はどうしたんだ?」

「帰ったよ」


 ふたりきりで出かけるつもりなら最初から彼女だけを誘っている。

 それをしなかった時点で分かりそうなものなんだけど、難しかっただろうか。


「美希は?」

「え、知らない」


 いつもはおはようぐらい言ってくるが、今日は一切話しかけられていなかった。

 そんなに帰る選択をした自分が間違っているとも思えないけどなあ。


「あ、話をしていたら戻ってきたようだな。美希ー」


 あ……せめて向こうで話をしてもらいたかった。


「椋大くん来てたんだ」

「おう。土曜日は悪かったな」

「本当だよ、いきなり他の子と遊ぶとか有りえないから」


 ほらね、こうしてあからさまな態度でいるんだ。

 それは椋大だって同じこと、途中退場とか許せないという話。


「悪い。今度なにか詫びする」

「あ、じゃあ喫茶店の1番高いやつで!」

「いいぞ」

「やった!」


 彼女は笑顔を引っ込め、こちらを無表情でじっと見てきた。

 普段明るい分、こういう顔は本当に迫力がある。

 咄嗟に謝ろうとする自分を抑え、視線を外に逸らすことで対応。


「席に戻るね、もう先生来るし」

「おう、じゃあ俺も戻るわ」


 特に食いつかれることなくなんとか乗り切る。

 こちらを責められても困る、なんとかしてふたりきりで話すようなことはないようにしたい。

 ――が、それからは椋大がいないのをいいことに無言の圧をかけてくることになった。

 昼休みも食べる場所をここだと決めていない僕が移動したら付いてきたし。

 しかもそのくせ、なにも言わないんだから本当に怖い。


「湊――」

「椋大助けてっ」

「は? って、絡まれてんのか、お前なにしたんだよ美希に」


 なにもしてない、というかできるわけがない。

 仮に彼女に手出しなんかしようとすればクラスメイトから殺られる。

 それに椋大は豊崎さんのことを気に入っているようだから心良くはないだろう。


「どいて」

「了解」


 もう放課後だからどんどんとクラスメイトが出ていく。

 異様な雰囲気を感じ取ったからなのか、たった5分ぐらいで僕ら意外消えてしまった。

 椋大は助ける気はないらしく適当な椅子に座ってスマホをいじっている。

 で、先程から彼女はずっと僕の正面に立ってこちらを見下ろしていた。


「ねえ」

「な、なに?」

「今度はふたりきりで行こうよ」

「え……どこに?」

「駅前の喫茶店」


 これはもしやたかろうとしているのでは?

 当分の間は前借りとかできないし高いのは不可能だぞ……。


「そうすれば私が満足するまで帰るとか言い出さないよね?」

「で、でもさ、今度椋大に奢ってもらうんでしょ? その時まで我慢しておけばもっと――」

「私が本気で奢ってもらおうとしてるって思ってるの? 残念だなぁ」


 でも、怖い雰囲気に負けて了承するわけにはいかない。

 意味のないことをしていたら椋大との時間が減ってしまう。

 僕と違って椋大は人気だから気をつけておかないとあっという間に取られてお終いだ。

 おまけにこのクラスの内田さんだって狙っているわけだしね。


「あれ、椋大はなにしてるの?」

「んー? ああ、あのふたりを待っているんだ」


 そんな時に聞こえてきた内田さんの声。

 このパターンは絶対に、


「安藤、また椋大に迷惑をかけているのね」

「いや……」


 そう、僕と椋大が一緒にいる時なら必ずこうなる。

 彼女曰く、椋大みたいな格好いい人間の側に僕みたいなのがいるのはおかしいそうだ。

 まあでも幼馴染じゃなければ接点だってできなかっただろうし、正しいと言えばそうなんだけど。


「用がないなら椋大は連れ帰るわよ」

「椋大がいいならいいけど」

「俺はまだ残るぞ、湊や美希と帰るつもだからな」

「椋大がこう言っているわ、だから早くしなさい」


 早くしろか、それは間違いなく正論だ。


「ごめん、行けないよ。椋大がいるなら行くけどさ」

「……同性愛者なの?」

「いや? あれだよ、ふたりきりで行く意味がないってやつ」

「なにその言い方」

「よし! じゃあいまから行くか。湊もそれでいいだろ? 内田も付き合え」


 そうだ、この状態なら全然行ける。

 本当なら空気を読んでやめるべきなのかもしれないが、そんなことをすれば誰もいなくなる。

 さすがにひとりになるのはごめんだった。


「安藤」

「どうしたの?」

「なんであんな言い方したのよ」


 おっと、このパターンは予想外。

 椋大の隣ではなく僕の少し後ろを歩いているのも驚きだった。

 だってライバルが楽しそうに自分の気になる人と歩いているんだよ? 気にならないのか?


「答えなさい」

「あ、いや……だってほら、豊崎さんが気になっているのって椋大だからさ」

「例えそうでも言い方を考えなさい。あの言い方だと不安になるって分からないの?」


 こっちはいつもあなたに不安にさせられているわけだが……。


「美希って可愛いわよね」

「そうだね」

「否定しないのね」

「僕ごときが否定なんてそんな恐れ多いことできないよ」

「それはともかく、クラスの男連中が許さないでしょうね」


 そう、だからそういうことは聞かないでほしい。

 仮に本人が聞いていたら気持ち悪いと思われるかもしれない。

 でも無視をすれば当然怒られるから答えるしかないわけだ。

 つまり弱者な自分にとっては詰みみたいなものだから。

 彼女はそれきり黙ってしまったため、僕も歩くことに専念した。


「今日は俺が奢ってやる、なんでも頼め。ただしひとりひとつまでな」


 着いて席に座ったら椋大がそう言う。


「わーい!」

「気前がいいのか分からないわね」

「うるさい、いいから黙って食べたいの頼め」


 奢ってもらうつもりはないためオレンジジュースだけを頼むことにする。


「ちょっとお手洗いに行ってくるわ」

「あ、じゃあ俺も行ってくるわ」


 ――もうそういう作戦に見えて仕方がない。

 まあ、そんなに気にする必要もないか、運ばれてきたジュースを飲んでいればすぐに戻ってくる。


「あかねちゃんと仲がいいんだね」

「えっ、どこをどう見たらそういう判断になるのっ?」


 確かにさっきの彼女は意外にもこちらを責めてこなかったけど普段は言葉で切り裂いてくるんだけど……。


「私、君がよく分からない」

「奇遇だね、僕も君が分からないよ」

「でも分かっていることもある、それは椋大くんが大切だってこと」

「それはそうだけど、そういう意味とか一切ないからね?」


 仮にもしそういう感情があるならふたりきりで行かせようなんてしない。

 内田さんのように邪魔をしていくことだろう、それをしていないんだから分かってもらいたい。


「怪しー」

「ないから」

「じゃあなんで椋大くんがいないと行ってくれないの?」

「それは――」

「よっこらしょっと、まだきてなかったんだな」

「あ、うん」


 僕が頼んだジュース以外はまだきていなかった。

 それでも待っていればすぐくるだろう、内田さんも戻ってきたから豊崎さんとの会話は終了。


「ねえ椋大くん、なんで安藤くんは君がいないと来てくれないの?」


 終わらせることはできなかったようだ。

 まあもう少しで本人から聞けるかもというところでお預けだから気になるだろうけども。


「それはあんたが椋大のことを好きだと考えているからよ」

「え? 私が椋大くんを?」

「ま、椋大だってあんたとよく一緒にいるしね、一概に安藤が間違っているとも言えないわ」


 またもや想像もしないところからの口撃。

 ただ、どうせ言おうとしていたことだから助かったことでもある。


「で、どうなの?」

「え、私はお友達だから一緒にいるだけなんだけど」

「ハッキリしなさい」

「椋大くんには悪いけど、別に好きじゃないよ」

「だそうよ」


 いや、これをこのまま信じる人間はいるだろうか。

 みんなから人気者の彼女だからこそ内田さんがいる手前、そう言ったのかもしれない。


「湊、お前は馬鹿だな」

「えぇ……途中で抜け出す人に言われたくないけど」

「もしかして、俺が美希ならいいとか言ったからか?」

「それもあるけどさ、お互い名前で呼んでて仲良さそうだなって。椋大も豊崎さんのために動いていることがあったからお似合いだなって思ってさ」


 美男美女のカップルとか最高だろう。

 彼女のことを密かに狙っている男子達だって、相手が椋大なら納得するはず。


「お前は? 美希のことどう思ってるんだ?」

「え、好きじゃないけど」

「ははは! 随分ハッキリ言うんだな!」


 当然だろう、そんな叶いもしないことを追ったりはしない。

 休み時間は外を見て、授業中は集中しての学校生活で十分だ。

 多くは望まない、ひとりでなければどうでも良かった。


「あ、あかねちゃんはどうなの! 椋大くんのこと好きなの!?」

「好きよ、もちろん特別な意味で」

「ぐぅっ……か、格好いいじゃん……」


 確かに格好いい。

 聞かれてストレートに答える、本人の前でそれを言えるのは勇気がある。

 僕も少しは見習いたいところだが……まあ、言う人がいないよねという残念な領域にいる人間だった。


「あ、ほらきたぞ、食べて落ち着け」

「はーい……あ。ありがとうございます」


 お礼を言えるのは素晴らしい。

 そういう切り替えがすぐにできるところもすてきなところだと思う。


「あむ――うん、美味しい!」

「それは良かった。内田はどうだ?」

「美味しいわ、本当に払ってくれるの?」

「ああ」

「ならそうね……はい、食べさせてあげる」

「サンキュ」


 おいおい、気になっているかもしれない豊崎さんの前でするなよ……。

 ほら、椋大の方をじっと見て複雑そうな顔をしているじゃないか。


「欲しい?」

「え、どうして僕に?」


 先程の複雑な表情はそういうことか!

 内田さんがなにも食べてない椋大にあげてるから、あげなければいけないと考えたのかも。

 

「だってそれだけでしょ? やっぱりなんか遠慮してるんだから」

「してないし、自分で払うつもりだからいいんだよ。あと、それは豊崎さんが食べて」


 そんなこと恥ずかしくてできるわけがない。

 するなら椋大とか他の男子とすればいい。

 

「うわーん……安藤くんに嫌われてるぅ……」

「違うよ……」


 なんで演技なのに実際に涙を流せるんだよ、この子は。

 もし教室で同じことをされたら僕の命はなくなる――は大袈裟だが、悪口を言われるのは確かだ。

 た、質が悪い相手だぜ……豊崎美希さんは。

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