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昼休みが終わり、席に戻ると机の上に付箋が貼ってあった
お渡しする書類がありますので、お時間のある時に
総務課 松岡までお願いします
総務課 松岡
いかにも女性らしい達筆で書かれた付箋を眺めていると、俺の斜め前に座っていた女子社員が
「あぁ、それ総務の人からメモ渡すように頼まれたんですよ」
奥野さんがひょいと付箋を覗き込む
「松岡さんじゃん!良かったな」
良かった?何が?
そんな表情をしていたのだろう。
奥野さんが教えてくれた。
「松岡さんな、うちの会社一の美人。
仕事出来るし、気配りできるし、狙ってる奴多いんだよ」
「へぇ。まぁとにかく後で総務行きますね」
美人で字が綺麗な松岡さん
別に気になるとかではないが、興味はあった。
奥野さんは早く俺を総務へ行かせたがっていたが、課長から呼ばれて仕事の説明を受けていた。
課長から解放されたのは午後2時過ぎだった。
そろそろ総務へと思っていたら、次は別の社員に呼ばれて説明を受けていた。
やっと終わったのは午後4時を過ぎていた。
さすがに行かないとマズイと思い、総務へ行く。
総務課の扉を開け、「あのー」と声をかける。
一斉にこちらへ向けられる視線。
続けて「松岡さんは…」
そんなの、わざわざ聞かなくても分かる。
会社一の美人
一目で分かった。
透き通るような白い肌に、染めていない真っ黒のストレートな髪
。
目はパッチリと大きく鼻もスッと通っていて、ふっくらとした唇。化粧はおそらく薄くしているのだろうが、それでも彼女の美しさを引き立てるには充分だ
確かに凄い美人
思わず見惚れていると、松岡さんが立ち上げってこちらへ来た
「嶋本さんですね、こちらの書類です。
必要事項を書いて、今週中に私の方までお願いします。
押印忘れないでくださいね」
そういって封筒を渡された。
近くで見ると、ますます彼女の美しさが分かる。
こりゃ、たしかにみんな黙ってないだろうな
奥野さんの言いたいことが分かった。
席に戻ると奥野さんがニヤニヤしていた。
「どうだった?松岡さんは」
「確かに凄い美人でしたね」
「だろ?会社の中だけでなく、取引先の方からも声かけられてるらしい」
「恋人はいないんですか?」
と聞いて、しまった、今の発言はセクハラかプライバシーの侵害かもと焦ったが、奥野さんは気にもしていないようで、「それがフリーなんだよ」と教えてくれた。
さらに、先程付箋を教えてくれた女性、大野さんが「けど、会社の外にすっごいイケメンのエリートの彼氏がいるって噂ですよ!本人は否定してますが!」と興奮している
どうやら、人の噂が好きな人達なようだ。
「けど、いるんじゃないですか?いないって言ったほうが都合がいい事もあるでしょう」
俺は知っている。
決して女の言う事を鵜呑みにしてはいけないと。
自分のためなら平気で嘘をつく。
平気で裏切る。
平気で好きでもない男と寝る。
「大人しそうな顔の人間に限って、つく嘘って残酷ですからね」
「嶋本さん、昔になんかあった?」
「いいえ。一般論ですよ」
大野さんと奥野さんが顔を見合わせているのを横目で見ながら、
俺は届いたメールのチェックをしていた。