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案内をしてもらったラーメン屋は本当に近くで
そして安くて美味かった。
「うちの会社の奴らもさ、よく来るんだよ。
カウンターに座ってたら、隣に部長がって事もあるんだ」
奥野さんはチャーシュー麺とチャーハンの大盛りを、俺はらーめんと唐揚げの定食を頼んだ。
そういや、前の会社でもよくラーメン食いに行ったなぁ
ここまで決して安くはなかったけど。
「嶋本さんってさ、前は大企業にいたんだって?」
「いやいや、大企業ではないですよ、全然」
大企業ではないが、自社ビルを持ち、全国に営業所が点在する会社ではあった。
社内には食堂もあったが、食堂に向かうエレベーターが混雑していて、やっと着いたら満席ということも多々あり、結局は外へ買いに出るか食べるかだった。
「新しい人が東京の大きな会社から来るらしいって、みんな噂してたんだよ。しかも独身でイケメンらしいとかって女子が騒いでた」
「は⁉︎イケメンとかってどこの情報ですか。酷いデマですね」
一応、身なりは気にして最低限は整えていたが、
決してイケメンではない。
「まぁ、東京の男ってだけで評価は高いんだよ」
「東京って…元々は地元こっちなんですけどね」
「けど、10年以上もいたんだろ?そしたら、やっぱ全然違うよ」
「奥野さんはずっとこちらに?」
「あぁ、大学もここから通った。生まれも育ちも地元でさ、まさか嫁も地元でもらって地元で一生暮らすとは思わなかったな」
チラッと彼の左手を見ると、指輪が見えた。
「離れたいとは思わなかったんですか?」
「思ったよ。大学進学の時にね。
けど、じゃあ地元離れて何がしたいって考えた時に何もなくてさ、特に勉強したい分野もないし。
なら家から通える所でもいいかなって」
「それでも、会社に就職して、結婚して、いいじゃないですか」
「まあな。そっちは?結婚」
「全然ないですよ。相手もいないし」
「そうなん?てっきり、東京に彼女残してきたんだとばかり思ってたよ。意外だなぁ………けど、それなら益々騒がしくなるだろうな」
「は?何ですかそれ」
「ま、頑張れよ」
「何を頑張るんですか」
ガハハハと笑いながら奥野さんはラーメンの汁まで飲み干した。