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白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中  作者: 伊月ともや
一章 お昼寝令嬢、第二王子と出会う。
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第二王子は白銀の獅子と呼ばれる。

 

 ルークヴァルト・アルジャン・フォルクレスはエルニアス王国の第二王子だ。


 王太子である兄とはこの国の侯爵令嬢であった母から生まれた兄弟だが、ルークヴァルトより一つ下の弟、アークネスト・アウルム・フォルクレスの母は隣国の王女であるため、弟との仲は決して良いとは言えない関係だった。


 顔を合わせれば、弟は「同じ血が半分流れているなんて最悪だ」と言わんばかりに見下した表情を浮かべてくる。


 アークネストの母が王女の身分であったが故に、自身の血は最も高貴であり、そしてそんな己こそが王位に就くべきだと思っているからだ。


 恐らく、アークネストの母が言い聞かせて育てたに違いない。

 かの国の王女だった彼女は両国間の関係の安定のために嫁いできたものの、収まった地位は王妃ではなく側妃だった。

 それこそが彼女の自尊心が許せなかった最大の原因なのだろう。


 側妃がどれだけ我が息子の王位を望もうとも、次の王位に就く者はすでに決まっている。


 ルークヴァルト自身も兄が王位に就くことを望んでおり、王太子派の筆頭の一人でもある。

 兄には自分は王位に興味はないと告げているが、兄本人は少し身体が弱いようで時折、寝込んでいるため心の底から心配していた。


 それ故に、弟のアークネストは身体が弱い兄と王位に興味がない自分を排して、何とか王位に就こうと目論んでいた。


 そこには弟の母や彼の周辺の人間がどうにか王位に座れるようにと担ごうとしている動きが見られ、時折自分や兄に対して命を狙う刺客が送られて来ていた。


 そんな緊迫した空気の中で日々、生きているというのに休まる場所は通っている学園にさえもなかった。


 春になれば、エルニアス王立学園に新たな入学生がやってくる。そこには貴族の子息や令嬢だけでなく、平民の者達も同じように入学してきていた。


 まだ婚約者がいない王子と接する機会が出来たことが嬉しいのか、貴族の令嬢達はここぞとばかりに自分と関わりを持とうとしてくるため、それが鬱陶しい上に苦しくも思っていた。


 自分にとって自由だと思える時間は限られている。それなのに、その大事な時間さえも他者に奪われてしまうのだ。

 だが、そのことを嫌だと叫ぶことさえも出来ない。


 学園生活をあと数年送れば、卒業出来る。

 その後は身体が弱い兄を支えて行きたいと未来については漠然と考えていた。


 そんな時だった。


 昼休みになり、いつもと同じように令嬢達に昼食を一緒に摂らないかと迫られたが面倒だったため、暫く身を隠そうと思い、学園の敷地内にある広い庭の奥深くへと足を踏み込んだ。


 広すぎる上にまるで森の中のように木々が鬱蒼としている場所が突然、開けたと思えば──芝生の上に倒れている少女がいた。

 その光景に思わず、息を飲んでしまう。


 薄い金色と薄茶色が混じったような少女の髪色は、木々の隙間から零れた光によってきらきらと反射しており、人知れずに森の奥深くに住まう、妖精のように自分の目には映っていた。


 自身の腕を枕のようにして横向きの状態で目を瞑っており、ルークヴァルトはあどけなさが残る少女の表情をつい眺めてしまっていた。


 あまりにも少女が穏やかに、そして幸せそうな表情を浮かべていたからこそ、見惚れてしまっていたのかもしれない。

 

 だが、同時にとても無防備だとも思えた。学園の敷地内とは言え、変なことを考えない輩がいないとは言い切れないだろう。


「……」


 自分が女性の寝顔をじっくりと眺めてしまっていた現状に気付いたルークヴァルトはつい、声をかけてしまう。


 少女は夢うつつだったのか、薄っすらと瞳を開き、ルークヴァルトの顔を見ると寝言のように「白銀の獅子(シルヴァリオン)」と小さく呟いた。

 その言葉に思わずはっとしてしまう。


 この国で銀髪なのは自分と兄である王太子、そして母や母の実家の者だけだ。


 母に顔立ちが似ているため、中性的な顔をしている自分を貴族達は「銀の妖精」と密かに呼んでいることを知っていた。

 それは女の装いをしても、違和感がないと揶揄するもので、自分は「銀の妖精」という呼び名が心底嫌いだった。


 だが、目覚めたばかりの少女は自分を見るやいなや「白銀の獅子(シルヴァリオン)」と喩えたのだ。

 驚いたと同時に、彼女にとってはそのように見えているのだと思えて、ルークヴァルトは少しだけ安堵した。


 「白銀の獅子(シルヴァリオン)」とは、幼少期に良く読み聞かされるとある絵本の中に登場する獅子の呼び名だ。


 白銀の(たてがみ)を持ち、そして敵に立ち向かう勇敢な心と弱き者達に手を伸ばす優しい心を持った、動物達の国の王様のことだ。

 まるで自分がそうだと言われたように感じたルークヴァルトは奇妙な心地を抱いてしまう。


 恐らく、目の前の少女は寝ぼけていたため、何となく思ったことを口にしたに過ぎないだろう。

 それでもルークヴァルトは、彼女にとっては嘘偽りのない例えとして自分を評したことが何よりも嬉しかった。

 

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