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白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中  作者: 伊月ともや
一章 お昼寝令嬢、第二王子と出会う。
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お昼寝令嬢、昼寝仲間を歓迎する。

 

「だが、まだ一回目が成功しただけで今後も成功するとは限らないからな。何度も練習していくよ」


 真面目な表情でルークヴァルトは黒い革手袋をはめている両手を見つめる。

 その表情はどこか思い詰めているように見えて、他人にあまり興味を持たないユティアでさえ、つい声をかけそうになってしまう。


 ……この防御魔法を覚えたいということは……ご自身に危険が迫っているということかもしれない。


 身を守るためにこの魔法を覚えたかったのだろう。そう考えると彼が必死にこの防御魔法を覚えようとする意味にも納得出来る。


 だが、ユティアはそれ以上を追究しようとは思わなかった。


 何となく、苦労人のように思われるルークヴァルトには彼なりの事情があるのだろう。それを他人が暴いていいものではない。


 それでも、自分が教えたこの防御魔法がルークヴァルトの身を穏やかに守ることだけは静かに願っていたいと思った。


「教えてくれてありがとう、サフランス嬢。……もしよければ、何かお礼がしたいのだが」


「いえ、お礼は結構です。この秘密の場所を他言しないでいて下さるならば、それで十分ですから」


「だが……」


 ユティアはルークヴァルトからの申し出を穏やかに断った。

 何とか食い下がろうとしてくるルークヴァルトだが、正直に言って、ユティアは物欲が全くと言っていい程に湧かない人間なのだ。


 何故ならば全ての欲は快適な昼寝のために回されるからである。もし、この物欲が働くとなれば、それは確実に昼寝に関することだろう。


 それを理解したのか、ルークヴァルトは少々諦めたような表情を浮かべてから小さな溜息を吐く。


「……何というか、君は貴族の令嬢としては珍しい性格だな」


「え?」


 ルークヴァルトが何かを呟いたようだったが、しっかりと聞こえなかったユティアは首を傾げる。

 しかし、ルークヴァルトはどこか困ったように笑みを浮かべてから首を横に振った。


「いや、何でもないよ。……なぁ、サフランス嬢」


「はい、何でしょうか」


 魔法を教えるという約束はこれで終わったわけだが、ルークヴァルトは立ち去ることはせずに、こちらを少し窺っているような表情で見てくる。


 一体、どうしたのだろうか。もしかすると、まだ自分に用があるのかもしれない。ユティアは急かすようなことはせずにゆっくりと待つことにした。


「君が……。君が、もし良ければなんだが」


「はい?」


「……君のことを……」


 しかし、ルークヴァルトはそこで口を閉じる。何を言い淀んでいるのだろうか。

 ユティアはあえて問いかけるようなことはせずに、彼が言葉を零すのを更に待ってみる。


「……いや、駄目だな」


「?」


 何かを心に決めたのか、ルークヴァルトはユティアに視線を向けてきた。

 そして、少しだけ眉を下げつつ、どこか困ったような表情を浮かべてから問いかけてくる。


「……もし、君さえ良ければ、またこの場所に来ても良いだろうか。……俺も昼寝をしてみたいんだ。君があまりにも気持ち良さそうに眠っていたから、俺も寝てみたいと思ってしまってな」


「まぁ!」


 ルークヴァルトの言葉に、ユティアは思わず歓喜の声を上げてしまう。

 念願の昼寝仲間の登場を喜ばずにはいられない。


 一人で眠ることも好きだが、誰かと一緒にこの幸福な時間を分け合うように楽しむことも好きなのだ。


 しかし、今まで昼寝仲間になってくれる人は現れず、昼寝という幸福を分け合うことが出来ずにいた。だが、ついに密かな望みが叶う日が来たらしい。

 それ故に、喜ばずにはいられなかった。


「お昼寝に理解を示して下さって、嬉しいです! では、ルークヴァルト様が寝やすいようにと次は色々と準備してきますね! ふふっ、お昼寝仲間、今日からどうぞ宜しくお願いします!」


「あ、ああ」


 まるで性格が変わったように明るくなったユティアに驚いているのか、ルークヴァルトは少し引き気味に頷き返す。


「……俺のことを昼寝仲間として接してくれるならば、ルークと呼んでもらえないだろうか」


「え?」


「親しい相手には愛称で呼んでもらっているんだ。……駄目だろうか」


 親しい相手、つまり彼はユティアのことを昼寝仲間としてすでに認識しているのだろう。ユティアはぱぁっと笑顔になってからすぐに頷き返した。

 ユティアが笑顔になった瞬間に、何故かルークヴァルトは固まっていたが。


「分かりました。それでは私のこともどうぞ、名前で呼んで下さいな」


「えっ。……いいのか?」


 意外だったと言わんばかりにルークヴァルトは聞き返してくる。


「ええ、何と言ったって、私達はお昼寝仲間になるのですから! あ、でも人前で名前を呼ぶのは、お互いに憚られると思いますし、うっかりしないように注意しなければなりませんね。二人きりの時だけに致しましょうね、ルーク様」


 楽しみが出来たとはしゃぎ始めるユティアを眺めながら、ルークヴァルトはどこか気が抜けたように息を吐いてから、小さく笑いかけてくる。


「……ああ、宜しく頼むよ、──ユティア嬢」


 ルークヴァルトの深い青色の瞳が少しだけ反射したように光った気がした。


 こうして、ユティアは念願の昼寝仲間を確保することが出来たのだが──実は、確保されたのは自分の方だと知らず、数日後衝撃を受けることとなった。


 

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