王妃ナターシャ
ユリアは机に向かって紙を睨んでいた。
「うーん…パン以外には…そうだなぁ珍しい物とか置いてみたいなぁ。」
ここの所、ユリアは新しい魔法カフェで販売する物の事で頭がいっぱいだった。
「ユリア、どうしたんだい?」
トーマスが横からひょいと顔を出した。
「あ、トーマス様。今、お店の品物で悩んでいて。」
「魔法カフェで販売する物かい?」
「はい、そうです。せっかくだから、変わった物を置きたいなと思って。」
トーマスは、それを聞いて何やら考えている。
「ユリア、明日王宮に来ないか?珍しい人が来ているから。」
「珍しい人?」
「ハンプトン辺境伯だよ。」
「ハンプトン様ですか?」
「ああ、ハンプトン辺境伯の領地は他国との国境に近いから、珍しい物も沢山あるんじゃないかな?」
「確かにそうですね!明日、王宮に伺います。」
次の日、ユリアは王宮に向かった。
王宮の入り口でトーマスが出迎えてくれていた。
「トーマス様。お忙しいのにすみません。」
「いや、大丈夫だよ。ユリア、まずは王様に会いに行こう。」
「えっ!王様ですか?」
ユリアはいきなり王様に会うと聞いて尻込みしてしまった。
「トーマス様…心構えが…」
「はははは。大丈夫だよ。王様はユリアに会うのを楽しみにしているから。」
「は、はい。」
トーマスに連れられて謁見室に入るユリア。
ここは何度来ても緊張する場所である。
「王様がいらっしゃいます。」
その声に身体に力が入るユリア。
頭を下げて王様を待った。
「ユリア!久しいな!顔を上げなさい。」
顔を上げたユリアにニッコリ微笑むユリア。
その隣には美しい女性が優しい笑顔で立っていた。
「ユリア、これは王妃のナターシャだ。」
「ユリア、初めまして。」
「王様、お久しぶりでございます。王妃様、初めてお目にかかりますユリア・クリムトでございます。」
「まぁ、本当にトロエにそっくりなのね。」
ユリアは王妃のナターシャから母の名前が出た事に驚いた。
「貴方のお母様とは友人だったのよ。」
「そうなのですか?」
「ええ、トロエは私より少し年下ですから妹の様な感じでした。」
「母からは王宮に居た頃の事を聞いた事がなかったので、とても驚きました。」
「こうしてトロエの娘がトーマスと結婚するなんてな!驚きだな、ナターシャ!」
「ええ、何だか私も娘をお嫁に出した様な気持ちですわ。」
ナターシャはユリアを見て言った。
「トロエが作ったカフェを、また再開するのでしょう?開店したらお忍びで伺うわね。」
「はい、心よりお待ちしております。」
ナターシャはニッコリ微笑んで頷いた。