ユリアありがとう
「トーマス様、お茶でも召し上がってリラックスしてくださいませ。」
執事のローマンが持ってきた紅茶を一口飲んで、どうにか落ちつこうとするトーマス。
王宮騎士団の鬼の副総長として知られるトーマスだが、最愛の妻・ユリアの事となると話は別だった。
「まだなのか。」
「旦那様、ご辛抱くださいませ。」
時計の針の音だけが聞こえるリビング。
こんなに心が落ち着かないのは、ユリアにプロポーズする時以来か…。
「仕方ない、剣の稽古でも…」
そう言いながら立ち上がった時だった。
2階の寝室のドアが開く音がした。
トーマスはその音が聞こえた瞬間、一瞬のうちにリビングから居なくなっていた。
「終わったのか!」
トーマスは光の如く速さで階段を上がり、寝室から出て来た所のメリーに聞いた。
「はい、旦那様。ただ今、お呼びに伺う所でした。」
「そうか!」
トーマスは笑顔で、メリーの横を通り過ぎ寝室のドアを開けた。
「ユリア!」
「トーマス様。お待たせして申し訳ありません。」
トーマスはユリアが寝ているベッドまで行くと、枕元に腰掛けユリアの手を取った。
「それで、診断はどうなのだ?」
トーマスは医者の顔を瞬きもせずに見ている。
医者が話し出すまでの数秒間。
おそらく1秒か2秒しかないこの間を、こんなに長く感じた事はなかっただろう。
医者の口が動く。
「はい、トーマス様。」
医者の口がゆっくりとまた動いた。
「おめでとうございます。ご懐妊でございますな。」
「そうか!そうか!」
トーマスは握っていたユリアの手を、また握り直しユリアを抱きしめた。
「ユリア…よかった。ユリア…本当にありがとう…」
トーマスはいつものようにユリアをギュッと抱きしめてしまった。
それを見たマクゴナルは、慌ててトーマスの手を緩める。
「こら!トーマス様!そんなに力いっぱいユリアちゃんを抱きしめちゃなりませんよ!」
トーマスはハッとして、ユリアから手を離した。
「す、すまん!」
「大丈夫ですよ。まだお腹も大きくないですから。」
ユリアは少し照れながら答える。
「そうですね、今は大丈夫ですがこれからお腹が目立って来たら気をつけてください。あと、重い物や階段の登り下りもお気をつけてくださいね。」
医者からの言葉に、ユリアだけでなくトーマスも頷く。
「では、食べ物の事などはメイドの方にお話しておきますので。わたくしはこれで。」
「ああ、夜遅くに申し訳なかったな。本当にありがとう。」
「先生、ありがとうございました。」
ユリアはベッドの上から丁寧にお辞儀をした。
寝室に残ったユリアとトーマス。
トーマスはユリアの頬に手を添えて、微笑みながら見つめている。
「ユリア…俺は幸せだ。本当にありがとう。」
そう言って、ユリアにキスをする。
そして、最大限に気をつけて優しく優しくユリアをずっと抱きしめていた。




