料理教室
ユリアは朝からキッチンに居た。
どうしてユリアがキッチンに立っているかと言うと
昨日、トーマスとこんな話をしたからだった。
夕飯の後、トーマスが急に思い出したかのように言った。
「明日は休みを取ったから2人でゆっくりしよう。」
「そうなんですね!じゃあ、明日はお庭でピクニックしませんか?」
「ピクニック?」
「そうです!ここのお庭はとっても綺麗ですから。私、お弁当作りますね。」
ユリアは久しぶりの料理にはしゃいでいた。
貴族の奥様がキッチンに立つ事などないが、ユリアはシェフ達に事情を話し1人で料理を作らせてもらえる事に。
ユリアの料理を見たシェフ達は、手際が良いので驚いていた。
「後は…サンドイッチを詰めれば完成だわ。」
シェフ達は見たこともない料理を見て、目を離せないでいた。
「お、奥様。」
「なんですか?」
「あの…その料理は何という名前なんですか?」
シェフ達は、サンドイッチを見た事がなかった。
ユリアも、コートに作り方を教わったのだ。
「あ!これは「サンドイッチ」という物なんです。」
「サンド…イッ…チ?」
「そうです!何でも、遠い国の料理らしくて。パンの間に色々な物を挟むのがサンドイッチという料理らしいです。」
シェフ達は、その見た目に感心していた。
すると1人のシェフがユリアに聞く。
「奥様、そのサンドイッチは小さく切らないのですか?」
「あ、そうですね…その国では大きなままかぶり付くそうなんですよ。」
貴族がパンを食べる時は、小さく千切ってひと口サイズにしてから食べるのが通常だ。
しかし、サンドイッチはそこまで小さくする事は出来ないのでかぶり付くしかない。
「大きな口を開けて食べるのはお行儀が良くないですが…でも、小さく切ると美味しくないと思うんです。それに、トーマス様なら丸かじり出来ますよね!」
サンドイッチは、手に持てるくらいの大きさに切り分けて箱に詰めていく。
その様子をじっと見つめるシェフ達。
その様子に気づいたユリアが切れ端を持って言った。
「味見してみますか?」
「えっ!いや、でも…旦那様や奥様より先に食べるのは…」
シェフ達は恐縮しながらも、目はサンドイッチに釘付けだった。
ユリアはニッコリ微笑んで言った。
「大丈夫です。トーマス様には内緒で!あ!メイドの皆さんにも内緒で!」
シェフ達はお互いに顔を見合わせていた。
「ほら!早く早く!見つかっちゃいますよ?」
ユリアは持っていたサンドイッチをぐいっと差し出した。
「で、では…」
そう言ってメインシェフがサンドイッチを受け取る。
そしてひと口頬張った。
「!!こ、これは!!」
メインシェフが目を丸くして、一気に食べ切ってしまった。
それを見た他のシェフもサンドイッチの切れ端を手に取り、食べ始める。
「うまい!」
「こんな食べ方があるなんて!」
「これはかぶり付いた方が美味いです!」
サンドイッチの切れ端はあっという間になくなってしまった。
メインシェフがユリアの方を見て真剣な顔をしている。
「あの!奥様!ぜひ、このサンドイッチという物の作り方をご伝授してください!お願いします!」
メインシェフは頭を下げた。
それを見ていた他のシェフ達も一斉に頭を下げる。
「「「お願いします!」」」
「はい!私でよければ!今からやりましょう!パンを持ってきてください。」
その後、ピクニックの時間までユリアのサンドイッチ教室がキッチンで行われた。