奥様のパン
「さぁ!それでは今日は私がパンを焼くわ!」
ユリアはメリーが用意してくれたお手伝い用のワンピースを腕まくりした。
昨日は、カフェで着ていた物を引っ張り出したのだが、それではあまりにも普段着過ぎるとメリーが特別に用意してくれた。
カフェで毎日のようにパンを作っていたユリア。
手際良く材料を混ぜて行く。
「奥様!凄いですね!」
お屋敷のシェフ達も周りで見ている。
ユリアのパンは王都でもちょっと有名だったので、メイドの中には食べてみたいという者も居た。
「私は白の力をここで込めて行くの。そうするとふんわりとした優しいパンに仕上がるのよ!」
ユリアはカフェでやっていた様に、パンの生地に白の力を込めながら生地をこねて行く。
その後、発酵を何回か繰り返して成形をしてオーブンに入れる。
しばらくするとキッチンにパンのいい香りが漂ってきた。
その香りに釣られて、屋敷で働く全員がキッチンに集まる。
「今日は奥様がパンを焼いたんですか!」
「そうですよ!出来上がったらみんなで焼き立てを食べましょう!もうすぐですよ!」
メイドや他の使用人達は、屋敷の主が自らパンを焼くなど聞いたことがなかったのでワクワクしていた。
ユリアは出来上がったパンを食卓に並べる。
屋敷のシェフがそれに合わせて賄いのスープを作っていた。
「さぁ!召し上がれ!」
しかし、誰も手をつけようとしない。
「あの…どうしたんですか?食べてみて下さい。」
ユリアはみんなが食べないのを気にしている。
すると、メイドのメリーが言った。
「奥様がこちらにいらっしゃるので、みんな食べないで待っているんです。主の前で食事を取る事は許されておりませんので。」
「そうだったんですか……」
ユリアは少し考えて、何か思いついた様にお皿にスープを盛り付けてテーブルに置いた。
そして、席につきスプーンを持つ。
「では、今日からお昼は一緒に食べましょう!これは、決まりです!」
「「「え!」」」
テーブルに座っている全員が驚いた。
「どうしたんですか?主である私が決めたんですから、従ってください!ね!」
隣に座るメリーは少し微笑んで、みんなに言う。
「奥様のご指示ですから。今日からそうしましょう。では、いただきましょうか。」
「「「はい!」」」
その言葉に全員が食べ始める。
それを見たユリアは安心してパンを食べ始めた。
「奥様〜!これ、フワフワで美味しいですぅ!」
「本当に!これが噂の魔法カフェのパンなんですね!」
「ふふふ。喜んでもらえて良かったです。沢山食べてくださいね!これには白の力が入ってるので、食べると元気になりますよ!」
その後、みんなでおしゃべりをしながら楽しく食事をしたユリア。
昨日まで1人でお昼を食べていたユリアは、久しぶりの楽しいお昼ご飯が嬉しかった。
「ねぇ、メリー。明日から、私も一緒に食べていいわよね?」
メリーはニッコリ微笑んで言った。
「先程奥様がお決めになったんですから、良いのではないですか?みんな楽しそうでしたし。」
「良かった!お昼は一人きりだったから寂しかったの。私もお昼はお料理を手伝うわ。」
メリーは楽しそうに話すユリアを見て、自然と笑顔になった。