エプロン
いよいよ、オープンを明日に控え
クリムト家は慌ただしくなっていた。
薬草農園から駆けつけたコート御一行に加えて、トーマスの両親もやって来た。
「ユリアちゃん、明日はわたくしのお友達を沢山お店にご案内するわねー!」
アンジェラがいつにも増して、ワクワク楽しそうにしていた。
「それからこれを持って来たわ!」
アンジェラは沢山のエプロンを持って来た。
「お母様!これは?」
「私が作ったのよ!お店で働く皆さんのエプロン!どう?可愛いでしょ?」
アンジェラの手に持っているエプロンは驚くほどフリフリしたものだった。
ユリアがそのフリフリ加減に驚いていると、アンジェラが口を開いた。
「まぁ!ユリアちゃんったら!今、フリフリにびっくりしてるでしょう?」
「えっ!あ、いえ、その…」
「ユリアちゃん?お店で働く方々には可愛らしくしてもらわないとね?可愛らしくが一番分かりやすいのはフリフリなのよ?」
「そ、そうですね。」
「ちょっと、ユリアちゃんもつけてご覧なさい!」
アンジェラはユリアに半ば無理矢理エプロンをつけ始めた。
「ほら!可愛いじゃない!」
それを見ていたコートが言った。
「あらあら、可愛らしいわね。」
「マグゴナル様もそう思うでしょう?」
ユリアは自分がカフェを切り盛りしていた頃、エプロンを付けてはいたがフリフリが一切ないシンプルなものだった。
フリフリには憧れていたが、ここまでフリフリだと少し恥ずかしい。
「あら!ちょうど良いところに!トーマス!見て見て!」
事もあろうか、そこにトーマスが来てしまった。
「どうしたんですか、賑やかですね。」
「これ見てー?ユリアちゃん、可愛いでしょ。」
トーマスが目にしたのは、アンジェラに着せ替え人形にされているフリフリのエプロンを付けたユリアだった。
「!!!」
トーマスはユリアを見て一瞬止まった。
「ト、トーマス様ぁ。」
恥ずかしそうに下を向くユリア。
「どう?トーマス。ユリアちゃん可愛いでしょ?」
トーマスは考えた。
…ユリアが可愛い。
フリフリしたユリアがめちゃくちゃ可愛い。
ちょっと恥ずかしがっている所も可愛い。
「あ、はい。とっても似合ってますね。」
これ以上ユリアを見ていると、可愛くて抱きしめたくなりそうだったので、それだけ言うとトーマスは部屋を出た。
「なによ、あれは。トーマスったらそっけないんだから。」
アンジェラは自分の息子の愛想のなさにプンプン怒っていた。
その夜、明日の用意を終えたユリアが寝室に入ると
トーマスが読書をしている所だった。
「トーマス様、遅くなりました。」
「ああ、お疲れ様。もう、用意は済んだのかい?」
「ええ、もう馬車に積んでおきましたので明日はそれを運ぶだけです。」
「そうか、お疲れ様。」
いつもと変わらない会話だが、トーマスの頭の中には先ほどのユリアのフリフリ姿が浮かんでいた。
ユリアは隣の浴室で入浴した後、部屋着に着替えてベッドに入った。
「ユリア。」
「はい。」
「さっきのエプロンの事だが…」
忘れていた自分のフリフリ姿の事を思い出したユリア。
「あ、あれは!お母様が!」
「わかっている。」
「安心してください。あれは、カフェの従業員の仕事着ですから。私は付けませんので。」
「あ、いや、そうではなくて。」
トーマスがちょっと言いにくそうにしている。
「いや、とても可愛かったよ。」
「え?」
「その、可愛かったからたまに付けてもいいんじゃないのかな…と言う事だ。」
「え?」
「おやすみ。」
トーマスはそれだけ言うと、布団を頭から被ってしまった。
「え?トーマス様?」
ユリアが揺すっても全然こちらを見ないトーマス。
「可愛かったですか?本当に?ねぇ、トーマス様。」
ユリアはトーマスの潜った布団を引っ張る。
全くこちらを見ないトーマスにユリアは言った。
「じゃあ、1枚貰って来ます。たまにエプロン付けようかな。」
ユリアがそう言うと、トーマスはもぞもぞとこちらを向いた。
「そうしてくれ。」
布団から目だけ出したトーマスの姿にユリアはクスッと笑った。




